人権保育とは?活動のアイデアや実践的な人権擁護を解説!

人権保育とは?活動のアイデアや実践的な人権擁護を解説!

自分や他人を大切にする心を育む方法の1つとして、人権保育があります。ただ、日常や保育の中に人権保育を取り入れたくても、「人権」という難しい言葉・考え方を幼い子どもにどう伝えればよいか、その手段に悩む方もいるでしょう。人権保育の方法は難しく考える必要はなく、保育士や保護者の方が子どもを大切な存在として接する中で、自然と育まれます。

当記事では、人権保育と「子どもの権利条約」の概要、人権保育の実例やアイデアを解説します。日常で人権保育を取り入れるのに、ぜひ活用してください。

1. 人権保育とは?

人権とは、幸せを追求し、自分らしく自由に生きる権利です。人間は誰もが生まれながらにして、人権を持っています。(出典:法務省「主な人権課題」/https://www.moj.go.jp/JINKEN/kadai.html

人権保育は、乳幼児期に行う人権教育の一種です。人権保育では、さまざまな活動を通じて、自分自身も他の人もかけがえのない存在であることを認め、お互いの個性・存在を尊重し合える関係を築いていきます。

1. 子どもの権利条約とは?

「子どもの権利条約」は子どもの人権について定めた、人権保育の根幹を支える基本理念です。ユニセフも子どもの権利条約に沿って活動しています。子どもの権利条約は全部で54条あり、原則に基づいて大きく4つに分けることが可能です。

ここでは表を用いて、子どもの権利条約を支える「4つの原則」について解説します。

子どもの権利条約4つの原則

命を守られ成長できることすべての子どもの命が守られ、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療、教育、生活への支援などを受けることが保障されます。
子どもにとって最もよいこと子どもに関することが決められ、行われる時は、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考えます。
意見を表明し参加できること子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮します。
差別のないことすべての子どもは、子ども自身や親の人種や国籍、性、意見、障がい、経済状況などどんな理由でも差別されず、条約の定めるすべての権利が保障されます。
(引用:unicef「子どもと先生の広場」/https://www.unicef.or.jp/kodomo/kenri//引用日2022/07/21)

すべての子どもにとって、生きること、育つこと、自分の意見や思いを表明すること、守られることは当然の権利です。子どもの権利条約では、未成年である年齢や生まれ、性別、障がいなどを理由に、人権が損なわれてはならないということも主張されています。

2. 【シーン別】人権保育の実例

保育園の保育指針では、子どもの人権を重んじた保育をすることが定められています。

保育所は、子どもの人権に十分配慮するとともに、子ども一人一人の人格を尊重して保育を行わなければならない。
(引用:厚生労働省「保育所保育指針」/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000160000.pdf/引用日2022/07/20)

日頃の何気ない発言や行動の中に、子どもの人権を損なう言葉や態度が隠れている可能性もあります。そのため、保育士は日常的に、子どもに対しての発言や行動に対して注意しなければなりません。

ここでは、日常的な保育のシーンから、子どもの人権を損なう恐れのある対応と、人権に配慮した対応の一例を紹介します。

1. 登園時・降園時

日によって、子どもが親と別れるのが寂しいときや、保護者の方のお迎えが遅くなるときがあります。状況がうまく運ばない場合でも、保育士は子どもの気持ちに寄り添い、声掛けの言葉選びに注意することが大事です。
登園時や降園時は、子どもの気持ちが繊細になりやすいタイミングのため、保育士は子どもに安心感を与える声掛けを心がけましょう。

【NG例】
登園時、母親に抱っこされて離れたくないという子どもに「ずっと抱っこしてもらう子は、赤ちゃんと一緒だよ」と言葉をかける。

【変更例】
「お母さんの抱っこ嬉しいね」と子どもの気持ちを受け止め、子どもの好きな遊びに誘ったり、「友だちが待っているよ」と声を掛けたりして、子どもの気持ちが切り替えられるように促す。

【NG例】
いつもお迎えが遅い時間になる子どもに、「○○ちゃんのお母さん、今日も遅いね」と言葉を掛ける。

【変更例】
言葉にしなくとも、子どもは早く迎えに来てほしい気持ちを抑えていることがある。子どもの気持ちに寄り添い「大丈夫だよ、先生と一緒に待っていようね」といった温かい言葉を掛ける。

(出典:全国保育士会「人権擁護のためのセルフチェックリスト」/https://www.z-hoikushikai.com/about/siryobox/book/checklist.pdf

2. 日中

日中は活動の幅が広がり、保育や遊び、排泄など、子どもが自由に行動するシーンが増えるため、保育士は多様な対応を求められます。
排泄を失敗した子どもに対して恥ずかしい思いをさせたり罰を与えたりすると、子どもが萎縮し、保育園で安心して過ごせなくなる恐れがあります。日中の保育では、子どもが自発的に次の行動に移れるように、手助けすることが大切です。

【NG例】
排泄の失敗をした子どもに対して「どうしてできないの?」と失敗を責める言葉掛けをし、他の子どもがいる前で着替えさせる。

【変更例】
失敗に対して叱らず、「着替えたら気持ちよくなるよ」と別室に連れていき、他の子どもや保育士がいないところで着替える。

【NG例】
子どもに注意したが言うことを聞かないため、廊下に立たせたり、散歩に連れていったりするなどの罰を与える。

【変更例】
子どもが言うことを聞かない場合は罰を与えるのではなく、子どもが見通しを持って行動できるよう、分かりやすい言葉掛けで導く。

(出典:全国保育士会「人権擁護のためのセルフチェックリスト」/https://www.z-hoikushikai.com/about/siryobox/book/checklist.pdf

3. 昼食時

食事は子どもの食べる量や食べ方などに個人差があります。保育園の昼食の時間は子どもにとって、友だちや保育士と一緒に食事を楽しむ時間です。子どもの気持ちを尊重し、食事を楽しめる雰囲気づくりを心がけましょう。

【NG例】
食の細い子どもの給食の量を、子どもの意見を聞かずにはじめから極端に少なくして配膳する。

【変更例】
子どもが「少なくしてほしい」など自分の意見を言えるよう、「今日の給食は食べられそうかな?」と声掛けをする。

【NG例】
ごはんをこぼした子どもに、床に落ちたものを食べるように指示する。また、他の子どもに聞こえるように、こぼしたことを指摘する。

【変更例】
衛生管理の面からも、こぼしたごはんはきれいに片づける。声掛けはこぼした子どもにこっそり行う。

(出典:全国保育士会「人権擁護のためのセルフチェックリスト」/https://www.z-hoikushikai.com/about/siryobox/book/checklist.pdf

4. 午睡時

子どもの中には午睡時にすぐに寝られる子や、友だちと布団を並べている状態が楽しくなる子、なかなか寝付けない子もいます。子どもが眠れないときは、休むことの大切さを伝えながら、丁寧に接するように心がけましょう。

【NG例】
寝ずにお話をしている子どもの布団を離して、会話ができないようにする。

【変更例】
「みんなが起きちゃうから静かにしようね」と言って、絵本を読んだり背中を優しくたたいたりして、寝られるように促す。

【NG例】
なかなか寝付けない子に「寝てくれないと仕事ができないから早く寝て」と言葉を掛ける。

【変更例】
自分の仕事よりも子どもの気持ちや寝付けない状況に配慮した声掛けを行ったり、手や背中などをさすったりする。

(出典:全国保育士会「人権擁護のためのセルフチェックリスト」/https://www.z-hoikushikai.com/about/siryobox/book/checklist.pdf

3. 子どもに伝える人権!保育のアイデアを3つ紹介

人権は、子どもにとって少し理解が難しい言葉です。子どもに人権について伝えるときは、「あなたはとても大切な存在なんだよ」「自分らしく生きていいんだよ」と、かみ砕いて説明すると伝わりやすいです。

保育で人権について取り入れる場合は、人権という言葉をかみ砕いて説明されている題材探しをするとよいでしょう。

ここでは、子どもに分かりやすく人権について伝えられる、おすすめのアイデアを紹介します。

1. 絵本や紙芝居で学ぶ

保育園で人権について子どもへ伝えるときは、絵本や紙芝居を用いるのがおすすめです。子どもは普段から絵本の読み聞かせに慣れているため、人権といったテーマでも受け入れやすくなるでしょう。
人権自体をテーマにしたものは、小学生や中学生向けのものが多く、保育園の子どもには理解しにくい場合もあります。そのため、自分や友だちのことを大切にする内容や、それぞれの個性を尊重するような内容の絵本や紙芝居を選ぶと、子どもが理解しやすいです。子どもが話に入り込めるように、かわいい絵の本を選びましょう。

2. 自分やお友だちについて考える

自分の好きなところや友だちのよいところを見つけるのも、人権保育になります。自分や友だちのよいところを見つけることで、自己肯定感や自尊心が高まり、自分や友だちの個性を受け入れ、大切にする力の向上が期待できるでしょう。

よいところ探しを取り入れた保育園では、子どもが友だちを大切にし、お片づけや友だちの手助けなどを自主的に行うようになった例が見られます。

(出典:小中保育園「保育実践研究・報告」/https://www.konakahoikuen.com/library/56cc2c9aaf7b5ae82c28f91c/5f4c5959704aed5e01bf8312.pdf

「みんなは〇〇君のどこが好き?」「自分の素敵なところはどんなところかな?」など、声掛けをすると、子どもの活発な発言を促せるでしょう。

3. ハグをする

「自分や友だちを大切にする」ということを、ハグという行動で表してみる方法です。ハグをすることで相手のぬくもりを感じ、自分や友だちが大切な存在であると体感できます。

ハグによって脳では、オキシトシンが分泌されます。オキシトシンは「幸せホルモン」「愛情ホルモン」とも呼ばれ、幸福感・信頼感・安心感などを高める効果があるホルモンです。

(出典:公益財団法人 母子健康協会「「タッチケアで絆を育む」…安らぎの物質オキシトシン」/https://jp.glico.com/boshi/futaba/no81/con02_06.html

「先生の宝物だよ」「大好きだよ」と気持ちを言葉にすると、子どもはより愛情と安らぎが感じられるでしょう。

まとめ

人権保育とは、乳幼児期に行う人権についての教育のことです。子どもに人権保育をする場合は、大人が日常生活の中で、子どもの想いや存在を尊重する姿勢を示すことが重要です。子どもの人権を尊重した行動を積み重ねた上で、人権をテーマにした保育を取り入れると、子どもの中で自分や周りの個性や存在を尊重する力が養われるでしょう。

「ほいくらし」には、保育の現場で活躍する方に向けて有益な情報を掲載しています。子どもへの指導や活動に悩んだ際は、ぜひ「ほいくらし」をご活用ください。

※当記事は2022年9月時点の情報をもとに作成しています

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