悩みを一緒に解決!保育所や幼稚園で需要が増えているカウンセラーの役割とは?|みどり保育支援相談

悩みを一緒に解決!保育所や幼稚園で需要が増えているカウンセラーの役割とは?|みどり保育支援相談

子どもを取り巻く問題が複雑化し、保護者の悩みも多様化している現在、保育園や幼稚園の職員だけで課題や悩みに向き合うのが難しい場面も増えてきました。そうしたなか、カウンセラーが保育職員と保護者のパイプ役となり、さまざまな悩みに寄り添う「保育のカウンセリング」の取り組みが広がっています。
今回は、名古屋市緑区にある「みどり保育支援相談」の代表理事で臨床心理士でもある山森紀子さんに、保育園や幼稚園で需要が増えているカウンセラーの役割やその効果についてお話をうかがいました。

\お話をうかがった方/
山森紀子さん 一般社団法人みどり保育支援相談 代表理事

一般社団法人みどり保育支援相談の代表理事であり、臨床心理士・公認心理師でもある山森紀子さん。
公立学校で教諭を務めた後、2017年から臨床心理士として契約保育園を定期的に訪れる保育支援活動を行っています。

「保育園にはなぜカウンセラーがいないのか」との疑問から活動をスタート

——カウンセラーとして保育園で支援活動を始めたきっかけをお聞かせください。

山森:大学院在学中に、「小、中学校には当たり前のようにスクールカウンセラーがいるのに、なぜ保育園にはいないのだろう」と疑問を持ったのが、そもそものきっかけです。特に、0歳から5歳の子育ては非常に悩みが多い時期。私もその時期に子どもを保育園に預けていたのですが、あらためて「園にこそカウンセラーが必要だ」と感じました。

また、教諭として勤務していた頃、小学校・中学校間では子どもに関する情報共有が行われていましたが、保育園や幼稚園・小学校間では情報共有が十分になされていないのではないかと感じたのもきっかけのひとつです。もし、子どもの発達や困りごとについて早期に情報を共有できれば、子どもたちやその家族に対して、より効果的で継続的な支援ができます。しかし、多くの保護者が子育てと仕事の両立に追われる現代では、園に求められる役割や子どもを取り巻く問題が多様化しているのも事実。多くの課題や悩みごとを園の職員だけで解決するのは難しいでしょう。そこで、定期的にカウンセラーが園を訪れることで、職員の負担を軽減しようと考えて支援活動を始めたのです。

——みどり保育支援相談では、具体的にどのような保育支援活動をされているのでしょうか。

山森:子どもの参与観察や、保護者と保育職員に向けたカウンセリングが主な活動です。子どもの参与観察では、保育職員さんと似たような格好でカウンセラーが教室に入り、気になっているお子さんの様子を観察します。一方、保護者や保育職員のカウンセリングでは、園内で保護者や保育職員の話や悩みをお聞きし、対応策を一緒に考えたり、今後の見通しや必要であれば他の相談機関をお伝えしたりします。

カウンセリングとあわせてコンサルテーション(※)も行っており、そこでは観察やカウンセリングの結果をもとに、今後のサポートについて園と話し合います。そうした活動を保育活動や保護者との関係作りに生かしてもらえたら嬉しいですね。

※課題に直面している一方の専門家に対して、他領域の専門家が支援する活動のこと。たとえば、問題を抱えている園児に直接対応している保育士に、カウンセラーがアドバイスを提供するのもコンサルテーションにあたります。

園で参与観察を行っている様子。園を訪れると、子どもたちから「先生久しぶりだね!」と声をかけられるそう。

保護者からの相談内容は、子どもの発達や子育てに関する悩みが大半

——保護者からは、どのような相談がありますか。

山森:子どもの発達と子育てに関する悩みがほぼ半々ですね。特に多いのは、子どもの言葉の遅れや出方などの悩みです。子どもが言葉を話すようになると、「お友だちとうまく遊べない」「会話が一方的になる」など、コミュニケーションに関する悩みも増えてきます。

また、発達障害の傾向がある子どもの保護者は、「夫婦間で子育てに対する意見が一致しない」といった問題を抱えていることがあります。そうしたなかで、子どもが不適切な養育をされていたり、園だけで対応するのが難しかったりする場合は、必要に応じて児童相談所や行政、病院や療育機関など外部機関と連携しながら対応します。

保護者のカウンセリングをしている様子。「悩みに寄り添い、まずはできるだけ思いを話していただくように心がけています」と山森さんは話します。

——保護者とのカウンセリングは、どのような流れで進めていくのでしょう。

山森:保護者からの申し込みや、保育職員からの依頼をいただいたうえで、カウンセリングを実施します。保育職員から依頼された場合は、「カウンセラーがご家庭の様子をお聞きしたいそうです」という形で、保護者に話をつないでもらうことも多いですね。

最初のカウンセリングでは、みなさん緊張されているので、できる限り丁寧に話を聞き、課題の背後にある「不安」に焦点を当ててアプローチするようにしています。1回目のカウンセリングの目標は次回の約束をすることで、「2か月に1回のペースでカウンセリングを行いたい」と提案することもあります。ただし、それを強要するのではなく、保護者の思いを尊重し、継続的に対話して信頼関係を築いていくことが大事です。就学前の不安を感じている保護者には、小学校のスクールカウンセラーへの相談もおすすめしています。就学についてのご相談も年々増えています。

保育職員は子どもの見立てや、保護者との関係性で悩みを抱えることが多い

——一方の保育職員からはどのような相談がありますか。

山森:子どもの見立てや、保護者との関係づくりに関する相談が多いですね。子どもの見立てに関する悩みでは、保育職員が工夫されていることに対して、理論的な背景や知識の裏付けを提供することから始めます。そして、時間が許す限り積極的に参与観察に入り、声かけの提案や子どもの行動の背景を説明していきます。簡単に言えば、第三者目線で異なる見方をお伝えすることで、保育職員のストレスの軽減や心の余裕につなげるのが、私たちの役割なんです。

また、保護者の性格や状況にあわせた接し方や、保護者の話を聞くポイントをお伝えするなど、保護者と良好な関係を築くための支援も行っています。

園で保育職員のカウンセリングを行う光景。さまざまな悩みを丁寧に聞き、対応策を一緒に考えます。

カウンセラーの導入によって起きた変化や効果とは?

——カウンセリングを受けた保護者や保育職員の反応はいかがですか?

山森:保護者の方からは、「園内で気軽に相談できて助かる」という声をいただいています。なかには、お子さんの健診などで気になることがあった際に、「心配だから、あらためて見てくれませんか」と相談される方もいらっしゃいますね。

保育職員からは、「定期的に相談できる人がきてくれて安心」と言われることが多いです。カウンセリングに慣れていなかった職員も、子どものちょっとした変化や悩みを自ら相談してくれるようになりました。

ほかには、「職員同士のコミュニケーションが増え、職場環境が良くなった」「カウンセリング後に保護者と話しやすくなった」などの声もいただいています。保育職員と保護者の間でオープンに建設的な話し合いができるようになれば、子どもたちにも大きなメリットがあるので、とてもうれしい変化だと感じます。

カウンセラーの活動を多くの保育園・幼稚園に広めていきたい

——今後の展望をお聞かせください。

山森:カウンセラーの活動を、1つでも多くの園に広めたいと考えています。カウンセラーが定期的に園に入り、保育職員と保護者のパイプ役になれば、園と保護者の関係がより良好になるはず。そうなれば適切な保育にもつなげやすくなり、先生方も安心して保育に取り組めます。また、今後も質の高い支援活動を行うために、カウンセラーの育成や育成したカウンセラーが安定して働ける仕組み作りも行っていきたいですね。

——最後に、「ほいくらし」読者に向けて、メッセージをお願いします。

保育職員が子どもたちとの時間を楽しみ、安心して保育に注力できる環境を作ることは、子どもたちや保護者にとって非常に大切です。だからこそ、すべてを先生たちだけで背負わず、いろいろな人の力を借りて保育に専念してください。そうできるように私たちもしっかりと支援していきたいと思います。

一般社団法人 みどり保育支援相談:https://midori-hoikushien.com/

取材・文/ほりちゃん  編集/イージーゴー

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