近頃、日本の教育現場でも頻繁に耳にするようになった「非認知能力」という言葉――。アメリカ・ワシントンDCでアートギャラリーを経営するかたわら、ライフコーチとして講演会やワークショップを展開するボーク重子さんも、非認知能力を重視して子育てをしたひとりです。その結果、娘のスカイさんは、全米の女子高生が知性や才能、リーダーシップを競う大学奨学金コンクール「全米最優秀女子高生」で優勝するという偉業を成し遂げました。アメリカの幼稚園でおこなわれている非認知能力教育の手法から、日本の保育現場でも生かせるものを教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司

1.保育実践~子どもに興味を持って「発見」する

子どもの非認知能力を伸ばすには、保育士さんや親など、周囲の大人が子どもに「教える」のではなく「引き出す」というスタンスが大切です(インタビューpart1を参照)。でも、娘が幼かった頃のわたしには、それが非常に難しいことでした。というのも、わたし自身が、親の指示通りに育てられた「指示待ち」の人間だったからです。

「引き出す」ためには、質問をしなければなりません。そこで、「どうすれば日常的に質問ができるのだろう?」と考えた。わたしなりに出した答えは、「もっとこの子のことを知りたいと思えば質問ができる」というものだったのです。好奇心を持てば、自然に質問が浮かぶではありませんか。

仮に、わたしの考えとまったくちがうことを娘がやったとしましょう。そこで「こうしなさい!」というのではなく、まずは興味を持ってみる。マインドセットをそう変えれば、「どうしてこうしたの?」と聞くことになりますよね。それを繰り返していくなかで、子どもとのかかわり方が、「教える」から「引き出す」に変わっていくのです。

わたしと娘のあいだでは、いまだにこの関係が続いています。学業をはじめ、たしかに世間一般的に見れば優秀な娘なのですが、ときにはバカバカしいテレビ番組を見ていることもある......(笑)。わたしが「そんな番組も観るのね?」なんていうと、娘は「こういう番組だから観るんだよ」とはっきりと自分の考えを伝えてきます。「観ていてあまりに考えることがない番組だから、頭をからっぽにできるし、そういう時間もわたしのなかでは必要なんだ」というのです。正直なところ、わたしが頭をからっぽにしたいときとはまったく違う方法です。娘に好奇心を持って意見を引き出すと、娘が成長したいまでも新たな「発見」があるわけです。

これは、保育士さんが親御さんへの連絡帳を書くときにも生かせる考え方だと思いますね。親の立ち場からすると、ただ時系列で記録したような報告はそれほど目にとまるようなものではありません。でも、「○○ちゃんはトラック遊びを一生懸命にやっていました。動くものが好きなのかもしれないですね」といった、保育士さん視点での「発見」を教えてもらえると、親御さんとしてもうれしいものですし、今後の教育を考えるうえでのヒントにもなるのではないでしょうか。

2.保育実践~子どもを「個人」として認識し、表現力を豊かにする

子どもに興味を持つことと同様に重要なのが、子どもを自分とはまったく別の個人であると認識することです。「大人扱いする」といってもいいかもしれません。子どもは「なにもわかっていない」という存在ではないのです。ただ単に、経験や語彙が少ないために、自分の感情や考えをうまく説明できないだけで、実はいろいろなことを考えています。興味を持って辛抱強く聞いてあげれば、子どもはちゃんと自分の感情や考えを表現できるのです。

その表現を手助けすることもできます。ワシントンDCのある幼稚園では、自分の感情を表現しやすいように、年齢に合わせて感情を表す単語を教えていました。1歳半くらいならば、「怒っている」「悲しい」「ハッピー」くらいでしょうか。もう少し年齢が上がると、「ちょっと不安」「気が立っている」といった具合にどんどん複雑な感情も教えるのです。

しかも、それらの感情が書かれたステッカーを自分に貼るというシステムもあり、興味を惹かれました。ある子どもが「悲しい」というステッカーを貼っていたとしたら、まわりの子どもも心配しますよね。「どうして悲しいの?」「大丈夫?」とその子を気にかける。そういう取り組みは、ただ感情表現の幅を広げるということ以外に、共感力を育てることにもなります。これもまた、日本の保育現場にも生かせることかもしれません。

他にも、わたしがアメリカの幼稚園で見て素晴らしいと思った教育手法をいくつかお伝えします。ひとつは「ステーション」というもの。子どもたちの個性によらず、それぞれのやりたい形で学習させるための手法です。

たとえば、本を読む国語のような授業の場合、「ひとりで読みたい子」「お友だちと話しながら読みたい子」「先生に読んでもらいたい子」といったふうにいくつかのグループ、ステーションにわけるのです。どのステーションを選ぶかは子どもたちの希望に委ねます。もちろん、全部のステーションに行ってもOKです。

どこの幼稚園にだって、問題を起こしてしまうようなちょっとやんちゃな子どもはいるものですよね。でも、ステーションの手法を使えば、自分がやりたいことを自分で選んでいるわけですから、ちゃんと学習に向き合い集中することができる。それぞれの個性を持った子どもたちが、自分に合ったかたちで学習することを可能にするのです。

3.「パッション」こそが、非認知能力を育む入り口!

また、自分で決めるという点では、アメリカの幼稚園ではクラスのルールさえ子どもたちが決めるということも大きな特徴です。年のはじめになると、先生が子どもたちに「今年の夢」を聞きます。すると子どもたちからは、「もっと本を読みたい」「チェスをやってみたい」と、いろいろな夢が出てきます。

そこで先生は、「じゃ、その夢を叶えるためにはどんなクラスにするべき?」と聞くのです。子どもたちは子どもたちなりに考えて、「勉強のときは静かにする」「お友だちの話をちゃんと聞く」「お友だちに意地悪しない」といったふうに自分たちでルールを決めていきます。当然、自分たちで考えて決めたルールですから子どもたちはちゃんと守ります。

自分で選ぶ、考える――。それって、主体性そのものですよね。うまくクラス運営をしながら、子どもたちの非認知能力を伸ばすことにもなるという感心させられた手法でした。そして、自分で選ぶ、考えるということにも通じるものですが、アメリカの教育に強く感じるのが「パッション」を重視しているということです。

以前、「なによりもフィールドホッケーが大好きだ」という子どもに会ったことがありました。その子は、フィールドホッケーをやる時間を目一杯つくりたいから、勉強はとにかく効率的にやりたいというのです。そこで、どう勉強すれば効率的なのか自分で考えて決めてやるようになった。つまり、自らのパッションが向かうフィールドホッケーをやりたいがために、勉強など他のこともうまくできるようになったのです。もちろん、「やる気」という重要な非認知能力も大きく伸びたことでしょう。

わたしは、「パッションこそ、子どもの非認知能力を育む入り口だ」と考えています。保育現場では、先に紹介したような手法(テクニック)を取り入れることもたしかに大切ですが、まずは子どもたちのパッションに注目してほしい。そう、パッションとは、その人間が持つもっとも大事な部分なのですから、ひとりの子どもを育てていくことにおいては、ものすごく重要なポイントです。

この子はなにが好きなのか――。それをつぶさに観察すれば、自然により良い教育手法を見つけられるのではないでしょうか。

【関連記事】
保育士が職場で実践したい、子どもたちの「非認知能力」の伸ばし方(前編)
https://hoiku.mynavi.jp/topic/2019/05/000288/

【関連著書】
世界基準の子どもの教養
ボーク重子 著
ポプラ社(2019)

ボーク重子さんバストアップ写真

【プロフィール】
ボーク 重子(ぼーく・しげこ)
ライフコーチ、アートコンサルティング。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。

【ライタープロフィール】
清家 茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。