子育て実践本の著者に聞く!子どもにしっかり伝わるほめ方・叱り方のポイントとは?

子育て実践本の著者に聞く!子どもにしっかり伝わるほめ方・叱り方のポイントとは?

「私の子どものほめ方や𠮟り方って、正しいのかな」「本当はほめてあげたいのに、つい叱ってしまう」。子どものほめ方・叱り方は、育児中の親なら誰もが抱える悩みではないでしょうか。

そんな保護者の方におすすめしたいのが、2023年7月に出版された書籍『子どもの自信が育つほめ方・叱り方』(JMAM)です。この本の特徴は、シュタイナー教育(※)と臨床心理学の考え方に基づいて、人が持つ気質を4つのタイプに分類していること。それぞれの気質に応じた子どものほめ方・叱り方のポイントが解説されているので、1人ひとりに適したほめ方・叱り方が学べます。

※子どもの個性を尊重し、自ら考え判断できる人になることを目指す教育方法。オーストリアの教育者・哲学者であるルドルフ・シュタイナーによって提唱されました。

著者の山下直樹さんは東京学芸大学を卒業後、シュタイナーの治療教育を学ぶためにスイス、ドイツへ留学。現在は名古屋短期大学で障害児保育を指導しつつ、保育園や子育て支援センターで、保育のカウンセリングも行っています。今回は、「人が持つ4つの気質とは何か」や、「それぞれの気質に応じた子どものほめ方・叱り方とはどのようなものか」について、山下さんにうかがいました。

\お話をうかがった方/
山下直樹さん 名古屋短期大学保育科教授 

保育カウンセラー、臨床心理士、公認心理師でもある山下直樹さん
保育カウンセラー、臨床心理士、公認心理師でもある山下さん。年間100か所以上の保育所・幼稚園を訪問し、これまで10,000人以上の子どもたちと向き合ってきました。

書籍を通じて、保護者の育児に関する悩みや不安を軽減したい

【書籍】子どもの自身が育つほめ方・叱り方
実際の相談事例を多く取り入れた一冊。子どもの気質に応じたNG言葉や、言い換え言葉を4コマ漫画で紹介しています。

——著書『子どもの自信が育つほめ方・叱り方』は、どのような経緯で生まれたのでしょう。

山下:新型コロナウイルスが流行し出したころ、子育て支援センターをはじめとする子育て支援施設は、利用制限を受けたり閉鎖したりしました。未就学児がいる保護者にとって、子育て支援施設は育児に関する情報を交換できる貴重な場所です。そのため、保護者のみなさんは人との交流が減り、育児の悩みや不安を1人で抱え込む状況になってしまいました。

そんななか、保護者のみなさんが行き着いた先はネットやSNSです。しかし、多くの方はそこでさまざまな内容の情報に出会い、心が疲れ、逆に育児に対する不安を増大させてしまいました。

そうした状況を目のあたりにして、「書籍を通じて、保護者の育児に関する悩みや不安をやわらげたい」「前向きに楽しく育児ができるような情報を届けたい」という思いが生まれたのが、出版を決意した経緯です。

育児や保育の相談を受ける山下直樹さん
今でも現場を大切にしており、子育て支援センターや保育現場によく足を運びます。1回で10人程度の方から、育児や保育の相談を受けるのだとか。

子どもの心に響くほめ方・叱り方とは?

——子どもを「ほめる」「叱る」という行為には、そもそもどんな意味があるのでしょうか。

山下:「ほめる」というのは、「あなたのことをきちんと見ているよ」と子どもにわかるように伝えてあげることです。その伝え方は、必ずしも言葉である必要はありません。例えば、背中をトントンと触るなどの行動によって、「見ているよ」と伝えてあげても良いでしょう。

一方の「叱る」は、「何をどうすれば良いのか具体的に伝える」ことです。例えば、食事の際に走り回る子どもに対して、「いい加減にしなさい」と言うのは叱ることではありません。「座って食べようね」と具体的に伝えるのが叱るという行為の本質なのです。

——子どもの心に響くほめ方・叱り方のポイントについても教えてください。

山下:ほめるときのポイントは、「伸ばしたい行動はすぐにほめる」「他の子と比べない」「1つ良いことをしたら4回ほめる」の3つです。「4回ほめる」とは、1回目はその場で、2回目はみんながいる前で、3回目は子どもが寝る前に、4回目は翌朝にほめるということです。

また、叱るときのポイントは、「近付いて子どもと目線を合わせる」「短い言葉で話す」「何をするか具体的に話す」の3つです。特に、幼児期の子どもは視野が狭いため、正面から向かい合って話すことを大切にしてほしいですね。

子どもと外遊びする山下直樹さん
「先生、今日は何する〜?」と園児に大人気の山下さん。「天気がいいねぇ」と話しながら、外遊びへ出発します。

子どもの4つの気質に応じたほめ方・叱り方の具体的なポイント

——山下さんの著書は、シュタイナー教育に基づいた内容になっています。シュタイナー教育において、人が持つとされる4つの気質とはどのようなものなのでしょう。

山下:人の気質には、胆汁質、多血質、粘液質、憂うつ質の4タイプがあるとされています。基本的に人はすべての気質を持ち合わせていますが、子どものころは、4つのうち1つの気質が強くあらわれる傾向にあります。

——では、それぞれの気質について、ほめ方・叱り方のポイントをお聞かせください。まずは胆汁質からお願いします。

山下:胆汁質の子どもは、正義感が強い猪突猛進タイプ。困難な状況でも前に進む勇気と決断力を持っています。しかし、自分の主張や意思が通らないとかんしゃくを起こし、周囲と衝突しやすい傾向にあります。

目標を達成するのが得意なのも、胆汁質の子どもの特徴です。そのため、「おやつの準備を頼んでもいい?」など、仕事をお願いして任せると喜びます。しかし、正義感が強すぎて、相手に手を出してしまうような一面もあるようです。叱る際は、衝突している子どもたちを一時的に引き離し、お互いに冷静になる時間を作ってあげてください。落ち着いたら何が嫌だったのか話を聞き、「今度はやめてって口で言おうね」と短い言葉で具体的に伝えましょう。

また、胆汁質の子どもは、活動的でエネルギー量が多いため、公園で外遊びをするなどエネルギーを発散する機会を取り入れると良いですね。

子どもと話す山下直樹さん
「先生、これ見付けたの〜!」と、子どもが山下さんに向かってうれしそうに駆け寄ってきます。「話す際は目線を下げて正面から向かい合ってあげると、子どもが安心感を持ちやすいんです」とは山下さんの言葉です。

——多血質の子どもに対するほめ方・叱り方のポイントは何でしょうか。

山下:多血質の子どもは、好奇心が旺盛で、明るく元気なのが特徴です。その一方で飽きっぽくて持続性がありません。明るく元気で友だちも多いのですが、表面的な付き合いになってしまうことがあります。

そんな多血質の子どもは、ほめられて伸びるタイプです。例えば外食のとき、自分で椅子に座れたら「上手に座れたね!」とほめてあげると喜びます。また多血質タイプは、行動よりも言葉が先に出るため、誤解を生んでしまう場面も少なくありません。その際は「本当は遊びたいんだよね」「これがほしいんだよね」などと、大人が子どもの気持ちを代弁してあげるのがおすすめです。

——粘液質についてはいかがでしょう。

山下:粘液質の子どもは、いつもおっとりしていて粘り強いタイプ。物事の習得に時間はかかりますが、コツコツと取り組むのが得意です。また、特定の限られた友だちと深く付き合う傾向にあります。

粘液質タイプの子どもは、その子のペースを尊重しつつ、できたことをほめるのが大事です。例えば、時間どおりに起きられなくても、自力で起きてきたら「自分で起きられてえらいね!」とできたことをその場でほめましょう。おっとりした性格から「早くしなさい」「まだしてないの?」と急かされるシーンも多いようですが、このタイプには「10時に出発するよ」と事前に伝えてあげると、心の準備ができ、前もって動いてくれます。

——最後に、憂うつ質の子どもに対するほめ方・叱り方のポイントをお願いします。

山下:憂うつ質の子どもは、しっかり者で感受性が強いタイプです。繊細な心の持ち主で、芸術的な事柄に能力を発揮します。また、つらい物事を重く受け止める傾向があるようです。

憂うつ質タイプはネガティブ思考になりやすいため、自己肯定感を高めてあげることが重要です。ネガティブ思考の裏には「やり方がうまくわからない」「最初は見ていたい」という繊細な気持ちがあるため、「最初は見ていたかったんだね」などの言葉で気持ちを受け止めてあげると、憂うつ質の子どもは安心します。

園児と遊ぶ山下直樹さん
保育カウンセラーとして園児の見立てを行うことも。「すごいの作っているね〜!」と園児の目を見ながら話しかけます。

子どもの行動の背景を想像して理解してほしい

——保育士や保護者が子どもの特性を理解する上で、重要なことは何でしょうか。

山下:保育士や保護者には、子どもたちの行動の背景にあるものを、想像し理解してほしいと思っています。これは私にもいえることですが、子どもと接する上では、「なぜ自分は子どもの行動をそのように捉えるのか」という自己理解を深めておくことが重要です。なぜなら、自己理解を深めた上で子どもの特性を知ると、子どもの行動の裏側にある理由や感情に対して冷静に対応できるからです。保育士や保護者がこのような視点を持って子どもたちと接すれば、より適切なサポートができるでしょう。

——今後の活動の展望についてお聞かせください。

山下:まずは、子どもとの接し方や保護者との関わり方を含めた「保育の楽しさ」を、学生たちに伝えていきたいですね。また、昔から伝えられてきたわらべ歌を保育現場に広めたいとも考えています。わらべ歌には、子育ての知恵や子どもの発達を促す要素が詰まっています。保育士のみなさんには、ぜひ子どもたちと一緒にわらべ歌を歌い、遊んでいただきたいですね。

子どもと遊ぶ山下直樹さん
「いっせ〜ので降りるよ。がんばって!」と子どもに励ましの声かけをする山下さん。

——最後に、全国の保育士へメッセージをお願いします。

山下:保育士は、子どもと保護者にとって最も身近な保育の専門家です。保育現場にはさまざまな課題がありますが、保育士のみなさんが専門性を持ち、一生懸命に子どもたちと関わる姿を深く尊敬しています。そのすばらしい仕事に、誇りを持っていただきたいですね。子どもたちと楽しく関わりながら、これからもともにがんばっていきましょう。

取材・文/ほりちゃん  編集/イージーゴー

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