ヘッドスタートとは?期待される効果や日本の就学前教育の状況を解説

ヘッドスタートとは?期待される効果や日本の就学前教育の状況を解説

育児支援として注目されているヘッドスタートは、子どもの教育環境を整える役割があります。ヘッドスタートという言葉には「円滑な滑り出し」といった意味があり、子どもは就学する前に教育を受けておくことで、文学的格差を縮めることが可能です。

当記事では、ヘッドスタートの概要とプログラム内容、期待される効果について解説します。さらに、日本の就業前教育の状況と他国との違い、日本に求められる教育についてもまとめています。

1. ヘッドスタートとは?

ヘッドスタートとは、サポートを必要としている家庭の子どもを対象として、就学の援助を実施するプログラムのことです。アメリカにおいて、1960年代の半ばから実施されています。貧しい家庭で育っている子どもに向け、ボランティアスタッフや給料が発生するスタッフが言語や数などに関する習得を手助けします。

ヘッドスタートは、文化的格差をできる限り生まないようにすることを目的とした取り組みです。基礎的な学習をしておくことで、子どもたちは小学校に入った後も一般的な家庭とほとんど変わりなく学習についていけるようになるでしょう。ヘッドスタートのプログラムは、短期大学の保育関連プログラムを終え、認定資格を得ることで働けるようになります。
(出典:厚生労働省「諸外国における保育の質の捉え方・示し方に関する研究会(保育の質に関する基本的な考え方や具体的な捉え方・示し方に関する調査研究事業)報告書」/https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000533050.pdf

1. ヘッドスタートのプログラム内容

ヘッドスタートにおけるプログラム内容は、次のようなものがあります。

・アルファベットを読めるようにする
・数字を10まで数えられるようにする
・親の意識改革をする

上記のプログラムはあくまでも一例であり、詳細は地域などによって異なります。

2. ヘッドスタートにはどんな効果がある?

厚生労働省が発表した資料によると、ヘッドスタートにより以下のような効果がみられています。

ヘッドスタートプログラムは、学校での成績、家族の自立、子どもの発達に関する親の支援について、効果をもたらしている。子どもの認知的・言語的な発達に効果があり、プログラムに参加した子どもは親との交流に積極的である。また親が教育や職業訓練に参加することを増やし、親の自立の助けにもなっている。
(引用:厚生労働省「(資料3) 諸外国における幼児教育の投資効果に関する研究成果 」/https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0519-6l_0002.pdf 引用日2022/11/04)

就学援助にとどまらず、栄養面や健康に関する手助けをするなど、幅広いサポートを実施しているのがヘッドスタートの特徴です。ヘッドスタートによって、成績の上昇や未成年者の犯罪・児童虐待の割合低下など、子どもや保護者の方の将来によい効果を与えることが期待できます。

子どもの教育体制を整えることがどれほど重要であるかを保護者の方に分かってもらえるよう、保護者の方の意識改革を目的としたプログラムも実施しています。貧しい家庭で暮らす子どもの学びを助けるだけでなく、保護者の方が学習できる場所という役割も果たしています。ヘッドスタートは、貧困に苦しむ家庭を社会全体でサポートできる施策です。

3. 日本の就学前教育の現状と他国との違い

日本には、アメリカにおけるヘッドスタート計画のような学習のサポート制度はありません。代わりに「保育所保育指針」のような指標を掲げることで、乳幼児期の子どもに対する援助を実施しています。加えて、保育施設を増やしたり、幼児教育を無償化したりする形で子育て世代をサポートしています。

フランスにおける3〜5歳児向けの幼稚園の99%は公立です。公立の幼稚園は無償で利用できるようになっており、幼稚園の在学率は100%です。対して、日本における3歳児の在学率のデータは75%、4歳児は94%、5歳児は97%と、いずれもフランスには届いていません。

(出典:文部科学省「就学前教育・保育制度の国際比較(未定稿)」/https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/049/shiryo/attach/1376406.htm

1. 日本の子どもの乳幼児期をサポートにつながる保育指針

日本では、保育所保育指針において「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を指標とし、子どもの乳幼児期をサポートする取り組みが行われています。「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の概要は、以下の通りです。

・健康な心と体
子どもが充実感をもち、やりたいことのために心身を十分に生かしつつ、健康で安全な生活を自らの手で作ることを目指します。自ら体を動かして遊ぶ楽しさを学ぶことで、小学校に入ってからも人生のさまざまなシーンで、のびのびと行動できるようになるでしょう。

・自立心
幅広く活動する中ですべきことを自覚し、自ら考え工夫しながら自信をもって行動する姿です。保育を行う上では、子ども一人ひとりが主体的に生活していけるよう、その日にすべきことなどを分かりやすく提示するなどの工夫が必要になります。子どもが自信をもてるよう、卒園の直前にはクラス全体で子どもが互いを認め合えるような機会を作るのも有効です。

・協同性
仲間と交流を重ねながらアイデアをシェアし、協力して目標を達成する姿です。幼いうちに協同性を磨くことで、小学校における集団生活の中で教師や友だちと協力して学び合えるようにすることがねらいです。

・道徳性・規範意識の芽生え
仲間とのさまざまな体験を通じて、良いことと悪いことを学びます。仲間の思いに共感したり、自らの行動を振り返ったりすることで、他人の立場に立ってものを考えられるようになります。

・社会生活との関わり
家族だけでなく地域の身近な人とも接する中で、相手の気持ちを考えたり、他人の役に立つ喜びを知ったりして、地域に親しめるようになることが目的です。さまざまな環境に関わり、身の回りから情報を取り入れて活用することで、社会とのつながりを意識しながら生活できるようになります。

・思考力の芽生え
幅広い物事に関わる中で、ものの仕組みや性質を知り、さまざまな関わりを楽しめるようになっていく姿です。自分だけでなく仲間の考えにも触れる中で、自分とは違う考えがあることを知り、そこからより良い考えを生み出せるようになります。

・自然との関わり・生命尊重
自然と触れ合う中で、動植物に対する親しみや感動を覚えていく姿です。自然に対する愛情や敬いの感情を抱き、「自然は命あるものであるため大切にするべき」という心をもって接するようになります。

・数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚
遊びや日常生活の中で、図形や文字、標識といったものに親しんでいく姿です。保育を行う上では、「知識を習得させることがねらいではない」というポイントに注意が必要です。あくまでも文字や標識がもつ役目に少しずつ気づき、関心や興味をもって感覚を磨くのがねらいです。

・言葉による伝え合い
保育士の方や友だちなどの仲間とコミュニケーションをとったり、絵本や物語に親しんだりする中で、豊かな言葉や表現を覚えていきます。自身の体験や思いを言葉で伝えたり、周囲の声に耳を傾けたりと、言葉を使ったコミュニケーションを楽しむようになります。

・豊かな感性と表現
心を動かすような体験をして感性を刺激されることで、さまざまな表現方法に気づけるようになる姿です。感じた思いや考えを自ら表現する喜びを知ることで、やる気を起こさせます。
(出典:厚生労働省「保育所保育指針解説」/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/1_24.pdf

4. 日本にヘッドスタート計画は必要?

日本においてもヘッドスタート計画は必要性の高いプログラムですが、ほかにも目を向けなければならないことがあります。その1つが、システムの構築です。

日本ではさまざまな取り組みが行われていますが、システムの構築はうまくいっていません。例えば待機児童に関しては、日本における深刻な問題になっています。保育の受け皿はまだまだ整備が足りておらず、たくさんの子どもが保育所などに入所できずにいます。

問題が残っているのは、幼児期の子どもだけではありません。小学校〜高校で子どもが学校の授業に追いつけない場合、貧困家庭では塾などに通わせられず遅れが発生します。塾に通えない子どもの受け皿となるシステムが整備されていないため、教育格差が残っているのが実情です。日本はまず、学習支援の拡充が求められていると言えるでしょう。

(出典:厚生労働省「保育をめぐる現状」/https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/02siryou.pdf

(出典:内閣府「学習支援の現状及び在り方 学習支援の第2ステージに向けて」/https://www8.cao.go.jp/kodomonohinkon/yuushikisya/k_6/pdf/s2_2.pdf

まとめ

ヘッドスタートとは、支援が必要とされる貧困家庭の子どもに向けた就学支援のことです。就学前に支援を受けることで、子どもは一般的な家庭とほぼ同じ位置から教育を受けられます。ヘッドスタートのプログラム内容は地域によって異なりますが、アルファベットを読めるようにする、数を数えられるようにするなどが一般的です。

現在、日本にはヘッドスタート計画のような学習サポート制度はありませんが、代わりに「保育所保育指針」といった指標を掲げて子どもの援助を行っています。

日本においてもヘッドスタート計画は必要とされていますが、それ以前に日本では学習支援拡充が求められています。日本は保育の受け皿を整備し、待機児童を減らすことも重要と言えます。

「ほいくらし」では、保育業界に関わる方に向けた有益な情報を発信しています。「保育所保育指針」に関する記事をはじめ、保育業務・運営に関わるさまざまな記事を掲載しているため、気になる方はぜひご覧ください。

※当記事は2023年4月時点の情報をもとに作成しています

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