20200225_retirement_allowance_main_01-thumb-690x350-1502.jpg

通常、月給や賞与、そして資格手当・経験手当・残業手当などの各種手当に目がいきがちです。そのため、退職金制度は見落としてしまうことが多々あります。しかし、退職金は仕事を辞めた後の生活を支えてくれるため、給与や福利厚生と同じくらい重要です。

当記事では、保育士の退職金の有無から、運営形態ごとの退職金の相場を解説します。また、退職金が支給されるタイミングについても紹介しているため、保育士の仕事を探している方は、ぜひ参考にしてください。

保育士に退職金はあるのか?

電卓とがま口財布

保育士の退職金が支払われるかどうかは、就業している保育園の運営形態で異なります。つまり、保育園によっては、退職金が支払われない施設もあるということです。そのため、保育士の求人を探す際には、まずは退職金の有無を調べておくことが重要となります。

保育園の運営形態は、地方自治体が運営している公立保育園と、社会福祉法人が運営している私立保育園が主流でした。近年は、保育園の運営に株式会社などの企業が参入してきたことにより、企業運営の保育園の数も増えています。

公立保育園・私立保育園・企業運営の保育園の退職金の有無は、下記の通りです。

◆公立保育園

公立保育園の保育士は、「地方公務員」と同じ待遇を受けられるため、退職金を受給できます。ただし、パートやアルバイトなど、非常勤で勤務していた場合は対象外となります。

◆私立保育園

私立保育園の保育士は、退職金の支給が法律で義務づけられていません。そのため、退職金の有無は、各保育園の就業規則により異なります。多くの保育園では退職金制度を設けていますが、保育園のなかには退職金が支給されない施設もあります。パート勤務など正社員でない非常勤は、支払われないことが多数です。

◆企業運営の保育園

株式会社など企業が運営する保育園では、保育士は一般企業の職員という身分です。一般の会社に勤めている方と同様に、退職金制度がある保育園もあれば、退職金のない保育園もあります

保育士が貰える退職金の相場はいくら?

保育士が貰える退職金の相場は、運営形態によって違いがあります。退職金は、退職直前の給料に、勤続年数や退職理由による係数を掛けて算出することが一般的です。

しかし、保育園によっては、上記の金額に勤務成績や態度による調整額が加算されます。そのため、まずはそれぞれの退職金の計算方法を知ることが重要です。

ここでは、公立保育園・私立保育園・企業運営の保育園それぞれの退職金の相場や計算方法を紹介します。

公立保育園の場合

公立保育園の場合、地方公務員と同じ算出方法で退職金が計算されます。地方公務員の退職金算出方法は下記の通りです。

退職手当額=基本額(退職日給料月額×退職理由別・勤続年数別支給率)+調整額(調節月額のうち額が多いものから60月分の合計額)

(出典:総務省「退職手当条例(案)の改正について(論点メモ)」https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/komuin_taishoku/pdf/071221_1_si7.pdf

例えば、給料月額20万円で勤続年数10年、自己都合退職で退職した場合の基本額は、下記のように算出されます。

給料月額20万円 × 支給率6.0 = 120万円

この基本額に調整額が加算された金額が、退職金です。調整額は勤務成績や勤務態度を勘案して算出されます。

毎月の調整額が5,000円の場合、勤続年数10年×12ヵ月×5,000円=60万円が加算される調整額です。したがって、公立保育園で働く保育士が貰える退職金の相場は、下記の金額となります。

退職金 = 基本額120万円 + 調整額60万円 = 180万円

私立保育園の場合

社会福祉法人運営の私立保育園の多くでは、福祉医療機構の退職手当共済事業に加入しています。保育園が退職手当共済に加入している場合、退職する際には勤続年数に応じた退職金を受け取ることが可能です。

福祉医療機構の公式サイトには、退職手当金計算シミュレーションのページがあります。下記は、いくつかのケースを実際にシミュレートし、私立保育園の退職金を算出したものです。

例1)勤続年数10年・退職前6ヵ月の平均本俸月額20万円・普通退職の場合...1,425,000円

例2)勤続年数15年・退職前6ヵ月の平均本俸月額30万円・普通退職の場合...3,720,000円

(参考:WAM 独立行政法人福祉医療機構「退職手当金計算シミュレーション(平成28年度制度改正対応)」 https://www.wam.go.jp/hp/guide-taisyokuteate-calculation-tabid-422/guide-taisyokuteate-tabid-424/

退職手当金シミュレーションは一般に公開されているため、自分でも簡単に計算することができます。ただし、あくまで一定条件の下での計算です。実際の退職金とは異なる可能性もあるため、その点については注意してください。

企業などが運営している保育園の場合

企業などが運営している保育園では、上記の退職金共済制度に加入している場合と、各企業それぞれの退職金制度で計算している場合があります。各保育園の退職金制度は就業規則に記載されているため、自分が所属している職場の就業規則を確認しましょう。

退職金制度の有無や金額の相場は、運営している会社と保育園により差があります。福利厚生を重視している会社であれば、一般企業と同水準の退職金を受け取ることが可能です。一方、小規模園の場合は退職金の額が少なかったり、退職金自体が受け取れなかったりすることがあるため、応募前には必ず退職金制度について確認しておきましょう。

そもそも退職金制度とは?

退職金制度とは、勤務先を退職する際に退職者に一定額のお金が支払われる制度です。退職金の額については、勤めている会社や法人によって算出方法が異なり、退職金の制度自体がない場合もあります。また、雇用形態がパートなど正規職員ではない場合も退職金が貰えるとは限りません。

退職金がある場合、「従業員に長く勤めて貰いたい」という意図から、仕事の経験や勤務年数が長いほど退職金は高額になるのが一般的です。勤務先によっては、勤務年数が一定期間を超えなければ退職金を支給しないところもあります。さらに、同じ退職でも自己都合か会社都合かによって貰える金額が異なり、自己都合退職の場合は貰える金額が少なくなりやすい点が特徴です。

退職金についての詳細は、就業規則に必ず明記してあります。退職金が貰えるかどうか気になる場合は、自分の勤務先の就業規則の内容を確認してみましょう。

保育士が退職金を貰うための条件

同じ保育士でも、公立と私立の保育園では仕事内容だけでなく待遇も大きく異なります。退職金の支給条件も異なるため、福利厚生や退職金の有無はよく確認しておきましょう。

  • 公立保育園の場合
  • 公立保育士は各自治体に雇われているため、地方公務員という扱いになります。そのため、自治体の条例に従って勤務年数1年以上で退職金の支給対象となることがほとんどです。ただし、非常勤など非正規雇用には支給されない場合もあります。特に、公立保育園では勤務年数や退職理由によっても退職金の額が大きく変動するため、退職する際には事務と相談しましょう。

  • 私立保育園の場合
  • 私立保育士は、一般企業に勤める会社員と同じ扱いです。退職金は労働基準法などの法律で支給することが定められているわけではないため、どの保育園でも退職金が支給されるとは限りません。退職金が支給されるのは正規雇用の場合がほとんどであり、勤務年数の条件も1~3年以上とさまざまです。一般的には勤務年数3年以上が支給対象となることが多く、公立よりも支給の条件が厳しいです。

私立保育園の場合は勤務先によってばらつきが大きいため、あらかじめ就業規則を調べておく必要があります。

退職金が支給されるタイミングはいつ?

退職届とカレンダー

退職金の支給日は、運用形態によって異なります。早いところであれば1ヵ月以内、遅いところであれば3ヵ月ほどかかるなど、さまざまです。

◆公立保育園

公立保育園は地方公務員と同じ制度が採用されています。そのため、「退職手当条例」により、退職日から約1ヵ月以内に受け取ることが可能です。法律による取り決めがあるため、受け取りまでの期間が大きく遅滞しないメリットがあります。

◆私立保育園

私立保育園が多く加入する退職金共済事業では、退職手当請求書が福祉医療機構に届いてから2ヵ月後が目安です。退職者が重なる3月などは事務処理が混雑するため、さらに退職金の受け取りが後になってしまう可能性があります。

◆企業運営の保育園

企業運営の保育園で、福祉医療機構の退職金共済事業に加入しているところは、公立・私立保育園と同様です。企業独自の退職金制度を定めている会社では、就業規則によって異なります。一般的な会社での支給時期の目安は、約1~3ヵ月です。

保育士が退職金を受け取る方法は?

保育園で退職金が出る場合、受け取る際に必要な手続きがあります。勤務先の保育園や退職金の制度によって手続きが異なるため、事前に確認するようにしましょう。

  • 公立保育園の場合
  • 公立保育園では、勤務先の事務担当者が処理してくれることが多いため、特に必要な手続きはありません。退職が近くなったら、なるべく早めに管理職や事務にその意向を伝えましょう。

  • 保育園が医療福祉機構の退職手当共済事業に加入している場合
  • 医療福祉機構の場合、退職したら自分で「退職手当金請求書」の作成から始める必要があります。請求書には、自分の氏名や個人番号、口座番号を間違いのないように記入しましょう。併せて、個人番号カードや顔写真付きの身分証明書の写しなど本人確認ができるものを添えた「本人確認書類貼付用用紙」も提出します。なお、退職日の翌日を基準として5年以内に請求しなければ退職金支払いが無効となってしまう可能性があるため、速やかに手続きを行うようにしましょう。

  • 企業が独自の退職金制度を運営している場合
  • 勤務先が独自の退職金制度を設けている場合は、人事や総務などの担当者が手続きをしてくれることがほとんどです。退職の意向が決まり次第、早めに担当者に伝え、手続きを進めてもらいましょう。

保育士の退職金には税金がかかる?

退職金はすべて手取りで貰えるわけではなく、退職金も勤務先から支給される所得の一部です。そのため、給料と同じように所得税や復興特別所得税、住民税が引かれます。また、退職金には税金の負担が軽減されるよう、退職所得控除が設けられています。退職所得控除額は、勤続年数に応じて控除額が変わる仕組みです。

なお、退職金を受け取るまでに勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、基本的に確定申告を行う必要はありません。

保育士の退職金にかかる税金の計算方法

退職金が支給されると所得税がかかります。どれくらい所得税が発生するのかは、退職金から退職控除額を差し引いた金額の半分である「退職所得」によって変動します。退職所得の計算式は、下記の通りです。

(退職金額−退職控除額(勤続年数によって異なる)×1/2=退職所得

また、退職所得控除は、以下のように計算されます。

   
勤続年数退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
21年以上 800万円+70万円×(勤続年数−20年)

例えば、20年勤務した人が1,000万円の退職金を受け取った場合、退職所得控除額は「40万円×20年」で「800万円」となります。退職所得の計算式に当てはめると、「1,000万円−800万円×1/2」で「100万円」となり、この100万円に所得税がかかります。所得税の税率は所得金額によって異なり、所定の税率を退職所得にかけることで所得税の金額を出すことが可能です。

保育士の退職金は高い?低い?

保育士でも退職金を貰える場合がありますが、退職金の金額は高いのか気になる人もいるでしょう。以下は、勤続10年と15年の場合における、私立保育園と中小企業の退職金の違いを比較した表です。なお、私立保育園の退職金の平均支給額は、独立行政法人福祉医療機構の退職手当金計算シミュレーションを参考にしています。

   
私立保育園(※1)中小企業(高卒)(※2) 中小企業(大卒)(※2)
勤続10年 1,425,000円 1,148,000円 1,483,000円
勤続15年 3,720,000円 2,091,000円 2,660,000円

(※1参考:WAM独立行政法人福祉医療機構「退職手当計算シミュレーション(平成28年度制度改正対応)」
https://www.wam.go.jp/hp/guide-taisyokuteate-calculation-tabid-422/guide-taisyokuteate-tabid-424/

(※2出典:東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/toukei/koyou/chingin/r2/

東京都産業労働局の中小企業の賃金・退職事情の調査によると、一般的な中小企業の退職金は勤続10年に大卒で150万円程度、勤続15年で267万円程度です。私立保育園では多くの保育園が福祉医療機構の退職手当共済事業に加入していますが、勤続10年では中小企業と同程度、勤続15年では中小企業よりも退職金が高くなる可能性があります。

ただし、上記はあくまでも目安であり、実際の退職金の金額は勤務先によって変わります。しかし、保育園・中小企業に関わらず、基本的には勤続年数が長いほうが退職金の金額も上がりやすいと言えるでしょう。

保育士の転職後に退職金を継続するには?

現在働いている職場と転職先の保育園のどちらも医療福祉機構に加入していれば、退職金の継続申請ができます。ただし、転職するタイミングや加入している年数によって詳細は異なるため、転職活動をする際は勤務先に必ず確認しましょう。医療福祉機構に加入していない保育園や、公立の保育園に転職する場合には、退職金の引き継ぎはできないため注意してください。

また、退職金の合算申出と継続異動では内容が異なります。合算申出の場合は、退職後3年以内なら可能であり、共済契約者間での同意が不要となります。それに対して、継続移動の場合は1日の空白もなく異動を行い、共済契約者間での同意も必要です。

保育士が退職金制度のある保育園で働く方法

保育士が退職金制度のある保育園で働きたい場合、事前によく調べて求人を探す必要があります。現在は求人情報に関するたくさんのメディアがありますが、求人の条件を絞って検索できる求人サイトがおすすめです。

「マイナビ保育士」では、退職金の有無を条件として求人情報を検索できます。退職金の有無はもちろん、支給条件となる最低勤務年数や金額などもよく確認し、自分にとって働きやすい環境の保育園を探しましょう。

退職金のある保育士求人を探す際にはアドバイザーに確認する

アドバイザーと求職者

退職金の有無や金額の相場は、運営形態や採用している制度により異なります。しかし、求人情報の全てに目を通すことは大きな労力を使うため、退職金のある保育士求人を探す際は、転職サイトのアドバイザーなどに確認することも一つの手です。

退職金制度は、求人票に掲載されていない場合があります。自分で直接確認することはリスクを伴うため、アドバイザーに仲介して貰うことはメリットです。後から退職金制度がないという事態に陥らないためにも、求人サイトや専門家からサポートを受けながら、しっかりと情報収集しておきましょう。

また、転職の際には、退職金以外に給料も大切なポイントです。マイナビ年収診断では、年齢などに応じた年収相場を調べるサービスが提供されています。転職を選択する際には、給料の目安となるため、おすすめです。

まとめ

保育士の求人を探す際には、退職金制度の有無を確認することが重要です。公立保育園では退職金制度が法的に定められていますが、私立や企業運営の保育園では、退職金制度自体がない場合があります。

保育士の退職金の相場は、保育園の運営形態による部分がほとんどです。公立保育園では基本額に調整額が加算されるため、私立保育園よりも高くなる傾向にあります。企業運営の保育園では、独自の計算方法を持っている会社もあるため、就業規則の確認が必要です。

退職金の有無を調べる際には、アドバイザーを有効活用しましょう。多くの情報を持っているアドバイザーの力を借りつつ、後悔のない転職活動を行ってください。

退職金ありの求人情報はこちら