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保育士は女性から人気が高く、やりがいのある仕事です。しかし、実際に働き始めるとサービス残業や仕事の持ち帰りをすることが多く、働きにくさを感じている保育士も少なくありません。

当記事では、保育士の平均的な残業時間や残業が多い原因、サービス残業に伴う弊害、保育士が残業時間を減らす対策、持ち帰り残業が少ない保育園の特徴を紹介します。残業をなくしたい人や、これから保育士として働くことを検討している人は、転職も視野に入れましょう。

保育士の平均的な残業時間は?

厚生労働省によると、保育士の残業時間の全国平均は2時間です。性別では、男性が3時間、女性が2時間と、1時間の違いが生じています。下記は、都道府県と男女別に保育士の平均残業時間をまとめた表です。

【男女別】都道府県別 保育士の超過実労働時間数(単位:時間)
男性 女性
全国平均 3 2
北海道 8 1
青森県 4 2
岩手県 2 2
宮城県 7 2
秋田県 2 3
山形県 0 1
福島県 12 3
茨城県 1 1
栃木県 4 3
群馬県 1 5
埼玉県 1 2
千葉県 1 2
東京都 1 1
神奈川県 7 3
新潟県 3 1
富山県 7 1
石川県 0 0
福井県 0 2
山梨県 0 5
長野県 0 0
岐阜県 0 3
静岡県 2 1
愛知県 3 1
三重県 16 3
滋賀県 9 4
京都府 0 1
大阪府 1 1
兵庫県 4 3
奈良県 0 1
和歌山県 0 1
鳥取県 1 1
島根県 1 1
岡山県 14 5
広島県 3 5
山口県 0 1
徳島県 3 1
香川県 1 2
愛媛県 44 5
高知県 4 3
福岡県 1 2
佐賀県 2 1
長崎県 3 1
熊本県 1 2
大分県 3 2
宮崎県 - 1
鹿児島県 2 1
沖縄県 1 1

(出典:厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」/ https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2020/index.html

都道府県別に見ると、愛媛県では男性保育士の残業時間が突出して長くなっていることが分かります。また、男性保育士の残業時間が10時間を越えているのは、三重県・岡山県・福島県の3県です。特に、愛媛県と岡山県は男性だけでなく女性保育士の残業時間も5時間と比較的長い傾向にあります。

その一方で、山形県や石川県、長野県、京都府、奈良県、和歌山県、山口県などで働く保育士の残業時間は0~1時間です。そのほかの都道府県も基本的に残業時間は10時間を下回っています。

このことから、保育士の残業時間は都道府県によって差があるものの、「残業時間が非常に長い」とは言えないでしょう。

残業する保育士が多い4つの原因

時計と家

保育士の残業時間は平均的に長くないとはいえ、残業ゼロというわけではありません。また、保育士が家に仕事を持ち帰っている場合、その労働が厚生労働省の調査に反映されていない可能性も考えられます。実際に保育士として働いている人の中には、残業が多いと実感している人も多いでしょう。保育士の残業が多い原因には「人手不足」「仕事量」「行事・イベント」「職場の風潮」の4つが挙げられます。

保育士の人手不足が深刻化している

保育業界は慢性的に人手不足です。2017年度末で必要な保育士数は約46万人と試算されていますが、実際は約38.6万人しか働いておらず、約7.4万人の保育士が不足しています。保育所の勤務者が足りていないことは、保育士の有効求人倍率の推移からも推測できます。実際に、2021年10月時点における全職種の有効求人倍率は1.16倍であるのに対し、保育士は2.66倍です。

(出典:厚生労働省「保育士の需給見通し」/ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000057741.html
(出典:厚生労働省「保育士の有効求人倍率の推移(全国)」 https://www.mhlw.go.jp/content/R2.11..pdf

保育園の人手が足りていないと自ずと保育士1人あたりの負担は大きくなり、残業や持ち帰り仕事が常態化しているケースもあるでしょう。人手不足が職場の不満につながって退職者が増え、さらに人手不足が深刻になるという悪循環に陥っているのが現状です。

保育士一人ひとりの業務量が多い

人手が不足しているために保育士1人ひとりの業務量が増大し、8時間の勤務時間内では仕事が終わらない保育園も存在するでしょう。認可保育園の多くは、7時~19時と朝から夜まで子どもを預かります。子どもを保育している間、基本的に保育士は子どもから目を離すことはできません。

しかし、保育士の仕事は子どもの保育だけではなく、事務作業や雑務も含まれます。連絡帳や保育日誌の記入、保育計画や園だよりの作成など、事務作業と一口に言っても多様です。子どもが昼寝している間や休憩時間に事務作業を終わらせようと思っても、なかなか取り組めないこともあるでしょう。その結果、子どもたちの帰る17時以降から事務作業を始める保育士は少なくありません。

行事・イベントで追われる傾向にある

保育園では、さまざまな行事やイベントが行われます。子どもたちと楽しいひと時を過ごせますが、行事・イベントの開催にあたっては事前準備が必要です。特に、卒園や入園のある春、クリスマスや運動会など大きなイベントのある秋や冬は、その用意で追われる傾向にあります。

行事・イベントの準備内容は、計画書やタイムスケジュールの作成、衣装の製作など、さまざまです。卒園や入園の時期には、行政や小学校に提出する書類作成も増えます。また、発表会や誕生日会などは毎月の定例行事です。通常の業務に加えて行事・イベントの準備を進めるために残業せざるを得ない状況になっている保育園もあります。

残業が当たり前という雰囲気がある

保育士不足で業務に追われているために「誰もが残業するのは当たり前」という空気になっていることが、保育士の残業の多さにつながっている保育園もあります。基本的に、保育士の業務は子どもに関係することです。日頃の事務作業はもちろん、行事・イベントで使う装飾や衣服などを家に持ち帰ってまで作るのは、ひとえに「子どもたちのため」という気持ちが大きいからでしょう。「子どものためになるのなら」と思い、残業することを厭わない人は決して少なくありません。

また、「先輩保育士が残業しているのに後輩が定時に帰るのは好ましくない」という暗黙のルールが存在する保育園も中にはあるかもしれません。そうした雰囲気があるために、本来であれば早く帰れるところを、あえて残業している保育士もいるでしょう。

【保育業界】サービス残業の実態

ToDoリスト

保育現場では、サービス残業が当たり前のように行われてきました。定時を過ぎてからの居残り仕事はもちろん、自宅で行う持ち帰り仕事など、なかなか残業代を請求できない状況も少なくありません。しかし、最近は待機児童問題などで保育園や保育士の労働環境にも注目が集まり、少しずつ改善の兆しは見えてきています。

にもかかわらず、なぜ保育士はサービス残業が多くなってしまうのでしょうか。ここでは、保育士業界のサービス残業の現実と、サービス残業が多くなる原因について詳しく解説します。

保育士の残業代は出るの?

保育園でも、当然ながら勤務時間や残業代に関する法律は適用されます。しかし、すべての保育園において、保育士の残業を計算して残業代を支給しているとは言えません。どうしても給料に反映されない残業が日々発生してしまいます。

基本的に、保育園での残業代は園の方針として上限金額が決まっており、手当として一律の金額のみが支払われています。しかし、実際に残業した時間をカバーできていないケースのほうが多く、決められた残業代を超えて残業した分はサービス残業です。

保育士を募集する求人の中には「残業なし」や「残業○○時間以内」と書かれたものもありますが、行事などで忙しいときには残業をしなければならない場合もあります。残業がない前提で就職してしまうと、残業代の説明もおざなりとなり、実際に残業が起きたときに給与手当面で不遇の扱いを受けるリスクが高くなります。そのため、残業なしの求人を選ぶのではなく、残業時間や残業代について説明できる保育園を選ぶようにしましょう。

保育士にサービス残業が多い原因は?

保育士にサービス残業が多い原因の1つに、「子どもを預かる時間ではない=保育士の労働時間ではない」と考える慣習があります。保育士の仕事といえば、子どもを預かることです。しかし、保育士は保育業務以外の仕事もたくさんあります。

たとえば、日々の連絡ノート記帳やお便りの作成などの事務仕事、明日の準備、さらに季節のイベントがあればイベント準備も並行しなければなりません。事務などの仕事は、園児が園にいる間は行えないため、必然的に子どもを預かる時間以外に行うことになります。子どもを預かる時間以外は保育士の労働時間ではないと思われる慣習がある以上、サービス残業をせざるを得ない状態です。

役割分担をして、手の空いた職員が事務や裏方の仕事などを担当できれば効率的です。しかし、基本的に保育園は深刻な人手不足の問題を抱えています。残業代が出なくても、子どもへの愛情ゆえに無理して働いてしまう人は少なくありません。

また、保育士の業界は比較的先輩後輩の上下関係が厳しく、人間関係の悪化を恐れて不条理な残業をしているケースもあります。自分の担当業務が終わっても、先輩保育士が残っていると帰りにくく、ついズルズルと残業することもあるでしょう。

保育士が長時間のサービス残業を続ける弊害

保育士の残業は、残業代の出ないサービス残業がほとんどです。自分では「大丈夫だ」と考えていても、思わぬ弊害を生むことがあります。

・残業代を正しく受け取れない
先述した通り、保育士も残業代に関する労働基準法の適用対象です。本来であれば持ち帰り仕事も労働時間にカウントされ、保育園と合わせて労働時間が8時間を越えれば残業代が発生します。しかし、労働時間が8時間以上になった旨を申請する保育士は少なく、未払い残業代が発生している可能性があります。

・健康に悪影響を及ぼす
残業が当たり前となって毎日遅い時間まで仕事をしていると、心身の健康に影響が出る恐れがあります。たとえば、肩こりや腰痛などは残業に起因する不調の代表です。また、プライベートで息抜きする時間もなくなれば、心の不調をきたし、働くことのできない病に陥ることも考えられます。

このように、本来なら受け取れるはずの給料が未払いになるだけでなく、心身の健康にも支障をきたしかねないことが、サービス残業の大きな弊害です。

保育士の残業時間を減らすための対策5選

保育業界では、残業をしない取り組みの導入が進められています。新しい手法を取り入れ、保育の仕事を効率的にすることが目的です。しかし、すべての保育園が残業時間の削減に取り組んでいるわけではありません。そのような場合は、自分で残業時間を減らす工夫をしましょう。保育士が残業時間を減らすための対策は、以下の5つが挙げられます。

(1)保育以外のタスクの「見える化」
残業をしない取り組みの1つは、保育以外のタスクを「見える化」し、役割分担を行う方法です。企業でも使われる業務効率化の手法であり、タスクの洗い出しによって不要な業務の削減にもつながります。

(2)ITの導入による業務効率化
これからの時代の効率化にはITの導入が欠かせません。行事で使うイラストのダウンロードや、イベントのアイデアの取得など、紙媒体からIT化することで短縮できる作業は多いでしょう。

(3)残業時間・業務内容の記録
残業した時間を給料に反映させることも考えましょう。未払いの残業代請求ができるようにはなりましたが、これまでと変わらずタイムカードなどに残業時間や仕事内容の記録をつけ、残業代請求の証拠を残すことも大切です。保育士の残業問題は、園全体や社会全体で考えなければならない事柄ですが、自分にできるところから始めることも大切です。どうすれば問題解決に近づくのか、個々の保育士にできる対策も考えてみましょう。保育士として働く中でできることは、たくさんあります。

(4)優先順位の決定・仕事の簡略化
保育以外の事務や雑務に追われすぎないように、作業効率を重視して行事の準備などを進められる環境を作りましょう。ゆとりを持って年間スケジュールを組み、日頃から少しずつ進めることが重要です。また、壁面装飾や小道具などは、リサイクルの見地から、以前に使ったものを活用するとよいでしょう。

(5)別の保育園への転職
風通しのよくない保育園では、新しいことを始めようとしても先輩に嫌がられることもあるでしょう。声を上げてもうまくいかない場合には、他の保育園に転職することも1つの手段です。保育士に優しくない園は、保育士の疲弊を増やし、保育の質を低下させます。保育士にも優しい良質な保育環境があってこそ、自分の力を十分に発揮できるでしょう。

残業が少ない保育園の特徴

自分自身で残業時間の削減を図っても、なかなか改善されないこともあるでしょう。今の職場の残業が多く、心身ともに疲弊しているのなら、残業が少ない保育園に転職を検討してみてはいかがでしょうか。ここからは、残業が少ない保育園の特徴を3つ紹介します。

子どもに対して十分な保育士が配置されている

厚生労働省では、保育園の種類によって保育士の適切な配置基準を決めています。その配置基準の最低限ではなく、配置基準よりも保育士を増やしている保育園は残業が少ない傾向にあります。

保育士の数が多ければ職員のタイプもバラバラとなり、「工作が得意な人に製作物を一任する」「書類ごとに作成者を分ける」など、役割分担して保育士1人あたりの負担を減らすことができるでしょう。子ども1人に対して何人の保育士が付くのか、保育園のホームページなどで確認してみてください。

行事・イベントが比較的少ない

行事・イベントが少なければ、その分の準備や用意が不要となるため、残業は発生しにくくなります。行事・イベントがあるとどうしても保育士の仕事は増えがちですが、行事・イベント自体が少なければ残業を避けられるでしょう。

行事・イベントが少ない保育園には、定員数が少ない保育園や都会でスペースが限られる認可外保育園、院内保育園などが挙げられます。認可外保育園や院内保育園は24時間365日体制が多くなりますが、大きな行事やイベントは頻繁に行われないため、残業時間に悩んでいる場合は保育士求人が出ていないかチェックしてみましょう。

ICTシステムを積極的に導入している

パソコンツールやアプリなど、ICTシステムを積極的に活用している保育園は業務効率化が進んでおり、残業が増えにくい傾向にあります。書類作成や登降園管理など、人の手で行っていた作業をデジタル化すると、さまざまな無駄を省くことが可能です。たとえば、書類に記入ミスがあったとしても、一から作り直すこともありません。

保育業界はIT化が遅れていると言われています。そのような中で、ICTシステムを取り入れている保育園は、保育士の残業削減に関心があり、働きやすい環境が整っている可能性が高いでしょう。ICTシステムの導入を図っているかどうかは、面接や園見学のときに確認してみてください。

まとめ

保育士は残業が多く、残業代をもらえないサービス残業をしている人も多くいます。子どもが好きな人ほど責任感から無理をしてしまうサービス残業は、保育士のやる気を奪う悪しき慣習です。

保育士の負担を減らすためには、園や社会が取り組むべき対策もありますが、保育士自身ができる対策もあります。今の職場に不満を感じている場合は、他の保育園に転職するなど環境を変えてみることも視野に入れてみてはいかがでしょうか。マイナビ保育士では、残業少なめの求人情報もご紹介しています。

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