骨や関節が衰えている子どもが増加中!運動不足と姿勢の悪さがもたらす「子どもロコモ」って何だ?

足がもつれて転んだり、転んだとき手をつくことができずに顔面を強打したり、家の中でつまずいて骨折したり……。こんな言葉を並べると、「高齢者の健康問題の話かな?」と思うかもしれませんが、実は違います。近年は、こうしたけがに見舞われる子どもの数が増えているのです。
整形外科医の林承弘先生によると、原因は子どもたちの運動器の機能低下にあるとのこと。いったい、子どもたちのからだに何が起こっているのでしょうか? 林先生に子どものからだの変化やけがの要因、改善策などについて、詳しく聞いてみましょう。
\お話をうかがった方/
林承弘さん
林整形外科 院長/全国ストップ・ザ・ロコモ協議会 理事長。子どもロコモが周知される以前の2008年から、埼玉県にて運動器検診モデル事業を推進する。2013年、日本臨床整形外科学会の有志によるNPO法人 全国ストップ・ザ・ロコモ協議会が設立され、2019年には認定NPO法人に。現在は同法人理事長として、講演やメディアでの情報発信などを通じて子どもロコモの予防・対策に尽力している。
園児から中学生のおよそ4割が、子どもロコモ!
──林先生は整形外科医として、長年にわたって老若男女のからだを診てこられました。子どもの運動器機能の低下が懸念されるようになったのは、いつ頃からでしょうか?
林:いまから14、5年前だったと記憶しています。その頃、物を投げる動作ができなかったり、何でもない動作で転んだりする子が増えていて、整形外科医を中心に「子どものからだの使い方がおかしい」「もしかしたら、ロコモではないか」との声が上がりはじめたんです。
──ロコモとは何ですか?
林:ロコモとは、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)の略称で、「運動器の障害のために、移動機能が低下した状態」を指します。ここで言う「運動器」とは、身体運動にかかわる筋肉や骨、関節などのことで、どれか1つでも悪くなるとからだがうまく動きません。
ロコモは、加齢によって運動器の機能が低下する中高年や高齢者特有の症状だと考えられていたのですが、先ほどお話したように、ある時期から「同じことが子どもにも起こっているようだ」との疑念が生まれました。
そこで、私たちが埼玉県のモデル事業として、2010年からの4年間、約1,300人の園児から中学生の運動器検診を実施したところ、約40%の子どもが何かしらの運動器機能不全を抱えていることがわかったのです。
──約40%に運動器機能不全があったというのは驚きです。
林:調査では、日々子どもと接する先生方から、貴重な証言を得ることもできました。その多くは「子どもなのにからだが硬い」「子どもなのにバランス感覚が悪い」など、基本動作能力の低下を不安がるものでしたが、なかには「雑巾がけの最中、手で体重を支えられず床で顔を打って歯が折れた」「跳び箱に両手をついただけで手首を骨折した」といった驚くべきエピソードもありました。
そして、調査内容を総合的に分析した結果、「これはロコモに違いない」と結論づけるに至り、「子どもロコモ」として国や自治体への注意喚起を行ったのです。その後、日本整形外科学会の先生方も警笛を鳴らしてくださり、2016年度からは小学校から高校の全学年を対象に、学校健診の必須項目として運動器検診が採用されることになりました。
乳幼児期の運動不足が、子どもロコモを引き起こす!?
──子どもロコモが増加した原因は、わかっているのでしょうか?
林:原因はいくつかあって、ひとつは子どもたちが外遊びをしなくなったことです。
よく指摘されるように、スマホやゲームの普及、塾や習い事による自由時間の減少、遊び場の減少などの要因が重なって、現代の子どもたちは昔ほど外で遊ばなくなりました。通常、子どもは外で友だちとボール遊びをしたり、かけっこをしたりすることで、バランス能力や空間認識力を身につけていきます。ところが近年は、テクノロジーの発達やライフスタイルの変化でそれができなくなっている。そのために、運動器の機能が低下しているのです。
──だから小さな段差につまずいたり、キャッチボールがうまくできなかったりする子が増えているのですね。コロナ禍によって、その傾向はさらに顕著になったのではありませんか?
林:おっしゃるとおりです。昨年、ある小学校で講演した際に、「低学年の生徒に空間認識能力の低い子が多い」と先生が言っているのを耳にしました。ちょうど幼児期にコロナ禍を経験した世代なので、バランス能力や空間認識力を欠いている子が多くてもおかしくないな、と思います。
──ステイホーム期間が長かった影響ですね。
林:子どもの運動器機能の発達には、乳幼児期の経験値が大きく影響します。バランス能力を例に挙げると、座ったり歩いたり走ったりする「動的バランス」が身につくのは生まれてから3歳くらいまでの期間。その後、3歳から6歳くらいにかけて姿勢を保つための「静的バランス」を身につけていきます。静的バランスについては、片脚立ちを思い浮かべてもらうとわかりやすいでしょうか。
しかし、乳児期にハイハイをしなかったり、幼児期に外遊びをしなかったりすると、動的バランスや静的バランスが十分に発達しない可能性があります。そして、バランス能力が未熟なまま小学校や中学校へ進んでいくと、学校生活の中で運動器にまつわるさまざまな不具合が顕在化してしまう、というのが私たちの考えです。
──運動不足がロコモにつながるのであれば、保育園での過ごし方にも気を配りたいところです。
林:そうですね。それともうひとつ、子どもロコモの大きな原因だと考えられるのが姿勢の悪さです。外遊びの減少にも関連する話ですが、最近はスマホやタブレットといったデジタルデバイスが普及したことで、猫背やストレートネックの子どもが増えています。姿勢の悪さがどんな弊害を生むかというと、肩甲骨や股関節が硬くなって、しゃがみ込みや体前屈ができなくなります。また、肩こりや腰痛、イライラなどの症状が出ることもあります。子どもと肩こりは結びつきにくいかもしれませんが、私の患者さんには5歳の腰痛持ちの子もいるくらいです。
いずれも病気未満の症状ではあるものの、日常生活に不具合が出る子は少なくありません。放っておくと大きなけがを引き起こす可能性もあるでしょう。幸い簡単な指導で改善できるので、「もしかして子どもロコモかも」と感じたら、なるべく早い時点で保育士さんや保護者が介入してあげることが大事です。
子どもロコモの可能性を探る5つの項目で、身体状況をチェック
──子どもロコモの可能性があるかどうか、保育園や家庭でチェックする方法はありますか?
林:私が理事長を務める認定NPO法人「全国ストップ・ザ・ロコモ協議会」では、次の5つの項目をチェックする方法を推奨しています。「うちの子は大丈夫かな」「運動不足かもしれない」と少しでも不安があるなら、一度チェックしてみてください。
林:5つのうち1つでもできないものがあれば、残念ながら子どもロコモに該当する可能性があるといえます。
「子どもロコモ体操」で、子どもらしいからだを手に入れよう
──子どもロコモに該当してしまったら、どうすればいいのでしょうか。改善策があれば教えてください。
林:まずは、姿勢を正すことです。運動器の機能が低下している子どもの多くは、姿勢が悪いことがわかっているので、そこから改善するのがいいでしょう。では、正しい姿勢とはどういうものか。立っているときは肩の力を抜いてあごを引き、おなかを引っ込めるようにしてください。座っているときは、骨盤を立てるように意識しましょう。骨盤を立てるというのは、骨盤が前や後ろに傾いておらず、坐骨(ざこつ)に均等に体重が乗っている状態のことです。
次におすすめしたいのは、「子どもロコモ体操」です。これは肩甲骨と股関節を柔らかくすることを目的にした体操で、できれば毎日、それぞれ5回ずつ正確に行うと効果的です。
- 子どもロコモ体操 1:胸郭の運動
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- 両手を頭の後ろで組んで、深呼吸をします。
- ゆっくり息を吸いながら腕を後ろに引き(肩甲骨を閉じる)、前に戻しながら息を吐きます(肩甲骨を開く)。
- ②を3回くり返します。
- 子どもロコモ体操 2:つま先立ち〜体前屈
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- 両手をまっすぐ上にあげて肩甲骨を引き上げ、つま先立ちで伸びをします。
- かかとをおろしたら、からだを折り曲げて上半身を前に倒します。その際、背中を曲げるのではなく、骨盤を倒すように意識してください。
- ゆっくりとからだを起こします。
- ①から③を3回くり返します。
- 子どもロコモ体操 3:スクワット
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- 肩甲骨を伸ばすようにして、腕をからだの前に突き出します。
- 背筋を伸ばしたまま、ゆっくりと腰をおろします。このとき、足の親指が浮かないように注意しましょう。
- もとの体勢に戻ります。
- ①〜②を3回くり返します。
<こちらから体操動画が見られます!>
全国ストップザロコモ協議会「スライド資料/動画 4.子どもロコモ改善ポイント(2) 体操」
──どれも簡単にできますね。これなら小さい子どもでも続けられそうです。
林:姿勢に関して言うと、子どもが正しい姿勢を四六時中キープする必要はなく、「正しい姿勢」とはどんなものかを知っていることが大事なんです。知ってさえいれば、「いま姿勢が崩れているな」と気になったとき、正しい姿勢に誘導できますからね。
保育園で「子どもロコモ体操の時間」を設けるのもおすすめです。先生がお手本を見せたうえで、みんなで一緒に取り組むのが楽しく続けられるコツ。「外遊びが足りないかも?」と感じたときは、ぜひ取り入れてみてください。
ちなみに、さきほど例に上げた5歳の腰痛持ちの子に、正しい姿勢を教えて、子どもロコモ体操を続けてもらったところ、2カ月で姿勢が劇的によくなりました。腰痛も改善されています。
現在、子どもロコモは決して少なくありません。乳幼児期のちょっとした生活習慣が、子どもたちの未来の運動能力に寄与したり、大きなけがを防ぐことにつながったりするので、積極的に遊びや運動をサポートしてあげてください。
取材・文/岸良ゆか