「特別な支援が必要な子」が増えている!?特別支援教育専門教員・岩本伸一さんに聞く、支援が必要な子どもや保護者との関わり方

「特別な支援が必要な子」が増えている!?特別支援教育専門教員・岩本伸一さんに聞く、支援が必要な子どもや保護者との関わり方

近年は、発達に特性が見られる子や、集団生活で困りごとのある子が増えています。鹿児島県で9つの保育施設を運営する鹿児島竜谷学園も例外ではありません。園児およそ1,000人のうち、児童発達支援事業所に通っている子は約15%、通っていないけれど特別な支援が必要だと思われる子は約13.8%で、その数は年々増加傾向にあるといいます。

そんななか同園は、2024年度より、特別な支援が必要な子とその保護者への対応についてアドバイスを行う特別支援教育専門教員を配置。特別支援教育の充実を図っています。

今回は、同園で特別支援教育専門教員として活動する岩本伸一さんにインタビュー。特別な支援が必要な子との向き合い方や、保護者への対応の仕方、特別支援教育専門教員を配置したことで起こった同園での変化などについて、お話を聞きました。

\お話をうかがった方/
岩本伸一さん
熊本県出身。自宅近くに重度障害児施設があり、交流する機会が多かったことから特別支援教育に関心を持つ。大学では障害児教育を専門に学び、卒業後は小学校や特別支援学校の教職員、教育センター職員、鹿児島県教育委員会指導主事、特別支援学校校長、児童発達支援センターの施設長などを歴任し、2021年に鹿児島大学大学院教授に就任。2024年度からは、鹿児島竜谷学園にて特別支援教育専門教員を務める。

岩本伸一さん

療育に通っている園児が約15%。「特別な支援が必要な子」が増えている

屋内, 人, 子供, テーブル が含まれている画像

自動的に生成された説明
巡回指導で園児たちと触れあいながら、発達や困りごとの様子を見る岩本さん。

――まずは、岩本さんが鹿児島竜谷学園で特別支援教育専門教員として活動することになった経緯を教えてください。

岩本:鹿児島竜谷学園は、西本願寺鹿児島別院を母体とする学校法人です。保育園、幼稚園、こども園を計9園運営しており、園児の数は全体で1,000人ぐらいになります。

学園では、特別な支援が必要だと思われる子が年々増加傾向にあり、先生たちは「どのような支援をしたらいいのか」「保護者や関係機関とどう連携すればいいのか」などの悩みを抱えていました。悩むあまり業務そのものに自信をなくしたり、退職を考えたりする先生もいたようです。

そうした背景から、2024年度がはじまるタイミングで、特別な支援が必要な園児の担任や保護者に助言や指導を行う専門教員の配置を決定。私が任命されたというわけです。誤解のないようにお伝えしておくと、私の肩書きである「特別支援教育専門教員」は資格名ではなく、学園内での職名となります。

――特別支援教育専門教員としての活動内容をお聞かせください。

岩本:系列の保育園・幼稚園・こども園の巡回指導、先生向けの研修会や講演会、保護者の相談対応、就学支援、個別支援計画の立案、関係機関との連携などを行っています。そうした活動のなかで、特に大切にしているのが巡回指導です。

――巡回指導ではどのようなことをしているのでしょうか。

岩本:竜谷学園では2024年度から、園ごとに「特別支援教育コーディネーター」という役職を配置しています。特別支援教育コーディネーターは、特別な支援が必要な園児が適切なサポートを受けられるように、園内および関係機関や関係者間の連絡や調整を行う「とりまとめ役」で、各園の先生から適任者が任命される仕組みです。

巡回指導の日はまず、各園の特別支援教育コーディネーターと打ち合わせをして、先生方の悩みや特別な支援が必要な園児の様子をヒアリングします。

その後、午前中いっぱいは該当園児の様子を観察。午後からは、先生方とカンファレンスを行います。カンファレンスでは、保護者の方に来園してもらって相談に乗ることもあります。2024年度の4月から巡回指導を行っていますが、これまで200人ぐらいの園児を観察してきました。

困りごとの背景を丁寧に見ていけば、おのずと手立てが浮んでくる

屋外, フェンス, 人, 建物 が含まれている画像

自動的に生成された説明
巡回指導では、教室だけでなく園庭での園児の様子も観察します。

――ひと口に「特別な支援が必要な子」といっても、特性の現れ方や強さはさまざまだと思います。これまでに見てきた200人のなかには、どんなお子さんがいましたか?

岩本:身体障害者手帳や療育手帳を持っている園児もいれば、注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)と診断された園児もいます。診断はついていないけれど、先生方が経験則から「特別な支援が必要ではないか」と感じている園児もいます。

とはいえ、その子の「困りごと」が発達の特性によるものなのか、個性によるものなのか、障害に由来したものなのか、現場では見極めが難しいケースが少なくありません。

また、保育園、幼稚園といった集団生活の場では困りごとがあるけれど、家庭という少人数の場では困りごとが見られなくなるケースもあり、そうした場合は保護者と先生との間で支援に対する認識にずれが生じてしまいます。

――本当に多様ですね。それだけに、「どのような支援をすればよいかわからない」と悩む保育士さんは多そうです。

岩本:先生方の悩みは、大きく4つに分けられると思います。1つは、「特別な支援が必要だと思われる子どもの実態をどのように把握・理解すればよいのか」という悩み。2つめは、「どのような支援をしたらよいのか」という悩みです。竜谷学園の場合、常勤の保育士さんと非常勤の保育士さん、あるいは保育補助のスタッフさんがペアを組んで保育を行っているので、その役割分担に悩む先生もいます。

3つめは保護者とのコミュニケーションに関する悩みです。先ほども申し上げたように、保護者のなかには、子どもに支援が必要だと気づいていない方もいます。このようなケースでは、保護者に「何」を「どこまで」伝えるのかが大きな課題となります。

そして4つめは、関係機関との連携です。通常の保育業務にプラスして、児童発達支援事業所や保健センター、医療機関とスムーズに連携するにはどうしたらよいか悩む先生は少なくありません。

――1つめと2つめの悩みに関して、岩本さんはどのようなアドバイスをされているのでしょう。

岩本:どの先生にも、最初に「子どもの困りごとや課題の背景にあるものを丁寧に探っていきましょう」とお伝えしています。

特別な支援が必要な子の困りごとは、氷山の一角にすぎません。困りごとの背景には、そのお子さんの個性や特性、環境との相互作用など、さまざまな要因が複雑にからみ合っています。だからこそ、その背景をしっかり観察して理解するように努めることが最初の一歩になるのです。背景を理解できれば、困りごとを解決する手立てはおのずと見つかるはずです。

――園児の困りごととその対応について、具体的なエピソードがあればお聞かせください。

岩本:児童発達支援事業所に通っていて多動傾向が強いお子さんがいるのですが、教室で活動している最中に突然パニックを起こし、教室の外に出て行ってしまうことがたびたびありました。

こうしたケースでは、すみやかに対応しなければ、思わぬ事故につながるおそれがあります。そこで、担当の先生を中心に、その子の背景を丁寧に見ることからはじめました。

なぜ突然パニックになり、教室を飛び出してしまうのか。いろいろな理由が考えられましたが、その子の場合は、元気がありあまっていて外で体を動かしたい、もっと遊びたいという欲求が強いのではないかという結論になりました。

一方で、先の見通しを立てるのが苦手で、「次に何をするのかがわからない」「いまやっていることをいつまでやればいいのかわからない」という不安から、いたたまれなくなって教室から飛び出している可能性も考えられました。

そうしたことを踏まえて次に行ったのは、課題となる行動の背景を担当者間で共有し、手立てを考えることです。「元気がありあまっていて外で体を動かしたい、もっと遊びたい」という背景については、ある程度は許容してみることにしました。教室から出ていってしまったら、すぐに連れ戻すのではなく、本人が満足して教室に戻ってくるのを待つことにしたのです。

ただし、現状のままでは事故につながる可能性もあるため、その子が教室の外に出ていくときは、ほかの先生が見守れる体制を作りました。もちろん、この方針が決定した時点で、ほかの先生たちにも情報を共有しています。

あわせて、教室の一角にブロックなどを置いて、その子が遊べるコーナーをつくりました。その子のもっと遊びたいという欲求を、外に出なくても発散できるようにしたんですね。机から離れてしまっても、教室内にいれば、みんながいま何をやっているのかを常に感じられますし、気が向けばお友だちの輪のなかにすぐに戻れます。

見通しについては、イラスト入りのスケジュール表を作成して視覚支援を行いました。

そうした手立てが功を奏し、その子が教室にいる時間は徐々に増え、3か月ほどでほかの園児と一緒に活動する姿も見られるようになりました。

――岩本さんが特別支援教育専門教員として竜谷学園で活動されるようになり、1年近くが経ちました。手応えは感じていらっしゃいますか。

岩本:取り組みは、まだ始まったばかりでお伝えできるほどの成果はないのですが、「特別支援教育について相談できる人がいる」ということが、先生方にとっての安心材料になっているように感じます。先ほどの教室から出て行ってしまう園児を担当していた先生も、「自分以外の誰かに相談できたことや、その子の状況をほかの先生と共有できたことで心に余裕が生まれ、園児の変化をあせらずに見守れました」と話していました。

「職員の特別支援教育に関する意識が大きく変わった」という声も耳にしています。休憩時間などに、子どもの支援に関する話題が、ごく普通に出るようになったそうですよ。

「園内委員会」を設置したことで、より適切な支援が可能に

特別支援について悩む保育士さんは多いが、「1人で抱え込まないですむ体制を整えることが大切です」と岩本さん。

――巡回指導や保育士への助言指導のほかに、現在取り組んでいることがあればお聞かせください。

岩本:特別支援教育コーディネーターを中心とした、「園内委員会」の設置を進めています。文部科学省は学校における特別支援教育の体制整備を推進しており、その一環として「校内委員会」(※)の設置を推奨しています。その校内委員会に当たる組織が「園内委員会」というわけです。

※特別な支援を必要とする児童や生徒のニーズを把握し、最適な指導や支援を行うための組織。

ちなみに、竜谷学園の各園で設置している特別支援教育コーディネーターも、小学校や中学校ではすでに設置が進んでいます。

――文部科学省の「令和5年度 特別支援教育体制整備状況調査結果」を調べたところ、小学校における校内委員会の設置率は99.5%、中学校は96.8%、特別支援教育コーディネーターの設置は小学校で99.4%、中学校で96.6%となっていました。

岩本:校内委員会および特別支援教育コーディネーターは、ほぼすべての小中学校で導入されています。けれど、幼保連携認定こども園や幼稚園、保育園で導入しているところはまだ多くないのが実情です。

――「園内委員会」の設置には、どのようなメリットがあるとお考えですか?

岩本:特別な支援のあり方について、より多くの視点で検討できるのが最大のメリットだと考えています。たとえば、ある園児について「この子は療育につなげたほうがいい」と思う先生がいる一方で、「個性や発達段階の問題で、発達に特性があるとはいえないのではないか」と感じる先生もいるかもしれません。そういったケースでは、複数の視点で検討するほうが、より適切なサポートを提供できると思うのです。

保護者も、支援について考えてくれる先生がたくさんいたほうが安心できるでしょうし、たとえば療育についてお話をするときも、複数の先生が話し合って導き出した意見のほうが、信頼性が増すのではないでしょうか。

加えて、支援についての知識やノウハウを蓄積できるのも、園内委員会のメリットです。園内委員会を設置し、活動を継続することで、園の保育力をより高めていければと思っています。

保育園と児童発達支援事業所の「支援の違い」を伝えることが大事

――先ほど、保育士側の悩みの1つに「保護者とのコミュニケーション」を挙げられました。こちらに関してはどんなアドバイスをされていますか?

岩本:保護者とのコミュニケーションで特に難しいのは、保護者が子どもの特性や困りごとに気づいていない、あるいは、うすうす気づいているけれどそれを受け入れられずにいるケースです。いずれにしても先生たちには、「誠意を持って事実はしっかりと伝えていきましょう」とアドバイスしています。

ただ、特性や困りごとだけが「事実」ではありません。そこにばかり注意を向けると、その子を正しく理解できなくなるので、長所や成長ぶりという「事実」についても、丁寧に伝えるようお願いしています。また、どんなサポートをしたのかもお話するようにしています。「こんなサポートをしたら、○○ができるようになりました」といった内容をお伝えしておけば、家庭でも参考になるかもしれませんから。

――療育についてはいかがでしょうか。「療育を検討すべきかどうか」や、「療育が必要だと感じた場合に保護者にどのように切り出したらよいか」で悩む保育士さんも多いようです。

岩本:いわゆる「グレーゾーン」のお子さんの場合は、特に悩ましいですよね。「療育に早くつなげたい」「保育園だけに通わせたい」など、保護者のニーズもさまざまですから、先生たちの苦労はとても大きいと思います。

療育が必要かどうかを考える際には、保育園や幼稚園で受けられる支援と、児童発達支援事業所などの療育施設で受けられる支援の違いを押さえておくことが重要です。

保育園や幼稚園は集団生活が基本ですから、受けられる支援はどうしても限定的になってしまいます。一方、児童発達支援事業所などの療育施設であれば、より個別的な支援が用意されており、言語の発達やソーシャルスキル、コミュニケーションスキルなど、その子が特に苦手とする分野に対して集中的・継続的な支援が受けられます。

竜谷学園を例に挙げると、大きな集団の場が苦手で、個別支援や小集団での支援が向いていると感じられる園児については、療育を検討するケースが多くなっています。保護者に療育の話をするときも、まずは、受けられる支援の違いについて説明してみてはどうでしょうか。

もう1つ、児童発達支援事業所に通っているお子さんの在籍や就学進級については、誤解している保護者が少なくありません。その点もきちんと説明する必要があるでしょうね。

――具体的にどのような誤解が多いのでしょうか。

岩本:「児童発達支援事業所などの療育施設に通っている子は、ずっと療育施設に通わなければいけない」「児童発達支援事業所に通っている子は、特別支援学級あるいは特別支援学校に進級する」といったイメージを持っている人が多く見られます。

確かに小学校入学前まで、継続して児童発達支援事業所に通っている子どもはいますし、特別支援学級あるいは特別支援学校に就学する子もいます。

一方で、保育園と児童発達支援事業所の両方に通っていた子どもでも、療育の必要性がなくなれば、保育園にだけ通うケースがあります。また、私が令和4年度に鹿児島県内の療育施設を対象にアンケートを取ったところ、療育に通っていた子のうち、65%の卒園生は通常の学級で学んでいるという結果が出ました。

こうした話をすると、児童発達支援事業所への通所や、特別支援学級あるいは特別支援学校への進級を、否定的にとらえていると感じる方もいそうですが、決してそうではありません。何がいいたいのかというと、療育を受けたとしても、進級についてはさまざまな選択肢があることを覚えておいていただきたいのです。

いうまでもなく、最終的には本人および保護者の意向が最優先です。けれど、療育や進級について知っているかどうかで、意向が変わることもあるでしょう。だからこそ、できるだけ正しい知識をお伝えすることが大切だと思っています。

――ありがとうございました。最後に、「ほいくらし」の読者に向けてメッセージをお願いします。

岩本:昔から、特別支援教育の現場で支援に関わる先生には、「のんき・こんき(根気)・げんき(元気)」の3つの気が必要だといわれてきました。保育士の方には、この「のんき・こんき・げんき」にプラスして「丁寧さの感覚」を持っていてほしいと思います。

「丁寧さの感覚」とは聞き慣れない表現だと思いますが、要は「何事にも丁寧に向き合う姿勢」です。

毎日・毎時間の保育、園児との関わり、保護者への対応。その1つひとつを、感覚を研ぎ澄ませて丁寧に行いましょう。「丁寧さの感覚」があれば、子どもや保護者の信頼が得やすいですし、特別な支援に関する経験や知識が少ない保育士さんであっても、きっと適切な支援を見つけられます。

それともう1つ、支援はチームで行うことが大切です。どうか1人で抱え込まないでください。みなさんを理解して一緒に考えてくれる人は、必ずそばにいらっしゃるはずです。

プライベートな話で恐縮ですが、私の妻も娘も保育士です。保育士という仕事の大変さ、そしてやりがいや楽しさを、妻や娘の話からいつも感じています。保育士は、未来ある子どもを育てる本当に魅力的な仕事だと思っています。どうか焦ることなく、一歩ずつ着実に、ご自身の心身の健康も大切にしながら、特別な支援が必要な子どもたちをサポートしてあげてください。

取材・文/小川裕子

この記事をSNSでシェア