保育所定員の弾力化とは?メリットや実施状況・問題点を解説

保育所定員の弾力化とは?メリットや実施状況・問題点を解説

働き方の多様化が進む昨今では、保護者の働き方・ニーズに合わせたサービスの提供が求められます。地域によっては待機児童が多く、働きたくても働けないという方も少なくありません。そういった状況の改善策として設定されたのが、保育所定員の弾力化です。ただし、自治体によっては弾力化が不要・認められていないといった場合もあるため、まずは状況を確認する必要があります。

当記事では、保育所定員の弾力化についてメリットや実施状況・問題点などを解説します。保育所の運営に関わっている方は、ぜひお役立てください。

1. 保育所定員の弾力化とは?

保育所定員の弾力化とは、保育所の受け入れ人数を柔軟に調整しつつ、地域や利用者のニーズに応じた適切な保育サービスを提供する方法です。弾力化された保育所では、保育施設の床面積や教育要素に応じて、子どもの受け入れ人数の上限を超えても対応できるようになります。

厚生労働省による、保育所定員の弾力化の定義は下記の通りです。

保育所定員の弾力化とは、市町村において待機児童解消等のため、定員を超えて入所できるようにすることをいう。
これまで、保育所定員の弾力化は、年度途中からおおむね10%の範囲内で認められていたが、平成10年度から原則おおむね15%まで、平成11年度からは原則おおむね25%の範囲まで認められることとされた。
(引用:厚生労働省「結 果 の 概 要」/https://www.mhlw.go.jp/www1/toukei/tiikij99_8/tk1.html 引用日2023/04/19)

弾力化制度の実施により、子どもや保護者の利益となるだけでなく、保育士の働き方改革にもつながることが期待されます。ただし、すべての市町村で弾力化が認められているわけではなく、自治体によっては定員を厳格に守らなければなりません。

2. 保育所定員の弾力化をするメリット

保育所定員の弾力化による主なメリットは、下記の通りです。

待機児童問題の解決になる
定員の弾力化により、保育所は急な利用者の増加や一時的な需要といったケースにも柔軟に対応可能となり、待機児童の減少が期待できます。

途中入園の子どもを柔軟に受け入れられる
定員を弾力化することで、年度途中からの保育を必要とする子どもの受け入れ先が増やせます。転園・入園がスムーズに進めば、保護者も安心感が増すでしょう。

保護者が柔軟に働ける
定員の弾力化により、保護者の復職や勤務時間の変更で子どもの保育時間を長くしたいといった要望に保育所が柔軟に対応できます。保護者は働き方に自由度が増し、仕事の選択肢が広がるでしょう。

上記のように、保育所定員の弾力化は待機児童問題の解決や保護者の働き方改革につながり、子育て世代全体の生活の質の向上が期待できます。

3. 保育所定員の弾力化の実施状況

厚生労働省によれば、令和4年4月1日時点での保育所等の利用定員は304万人となっており、前年比で2.7万人増加しました。しかし、利用する児童数は273万人と、1.2万人の減少が見られます。待機児童数は2,944人で、前年より2,690人の減少です。

待機児童がいる市区町村の数も前年から60減少し252市区町村、西宮市と筑紫野市では100人以上減少しました。全国的に待機児童数は減少傾向にあるものの、未だ十分な受け皿があるとは言えず、今後も保育所定員の弾力化普及が求められます。

(出典:厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」/https://www.mhlw.go.jp/content/11922000/000979606.pdf

1. 市町村の弾力化の実施状況

厚生労働省によれば、令和2年10月1日時点で保育所がある1,590市町村のうち、定員の弾力化を認めているのは1,265市町村(79.6%)、認めていないのは325市町村(20.4%)です。人口規模別に見ると指定都市では全市が弾力化を認め、その他の市では91.0%、郡部では67.6%が認めています。

(出典:厚生労働省「令和2年 地域児童福祉事業等調査結果の概況」/https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000843669.pdf

人口が大きいほど弾力化を認める割合が高い傾向があるものの、郡部ではまだ弾力化が認められていない市町村も少なくありません。

2. 保育所の弾力化の実施状況

定員の弾力化を実施している保育所は12,111か所(50.8%)で、公営が2,373か所(32.1%)、私営が9,738か所(59.3%)です。平成29年の調査と比較すると、公営・私営ともに減少しており、人口規模別でも同様に減少傾向が見られます。

また定員弾力化を認めていない325市町村のうち、認める予定があるのは22市町村(6.8%)、検討中が38市町村(11.7%)、認める予定がないのは265市町村(81.5%)です。認めていない理由として人口5万人未満の市と郡部では「待機児童がいないため必要ない」と判断した市町村が最も多く、78.9%を占めています。
(出典:厚生労働省「令和2年 地域児童福祉事業等調査結果の概況」/https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000843669.pdf

4. 保育所定員の弾力化の問題点

少子化やコロナ禍の影響もあり、保育所を利用する児童数や待機児童数こそ前年に比べて減少傾向にあるものの、保育所の利用率は年々増加している状況です。

(出典:厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」/https://www.mhlw.go.jp/content/11922000/000979606.pdf

弾力化によって保育所の定員超過を認めることは、待機児童の解消に役立ちます。しかし同時に、問題点があることも忘れてはなりません。

ここでは、保育所定員の弾力化を進める際の問題点を2つ解説します。

1. 保育士の確保

保育所定員の弾力化に伴い子どもの人数が増加するため、十分な数の保育士が必要となります。しかし、保育士は一般的な職業に比べ離職率が高く、確保が難しい状況です。令和4年上半期の全職業の離職率は8.7%ですが、保育士の離職率は9.3%(平成29年時点)であり、特に私営保育所では10.7%と高い数字が示されています。

(出典:厚生労働省「保育士の現状と主な取組」/https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000661531.pdf

(出典:厚生労働省「令和4年上半期雇用動向調査結果の概要」/https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/23-1/index.html

一方、令和5年1月の一般職業の有効求人倍率(季節調整値)が1.35倍であるのに対し、保育士の有効求人倍率は3.12倍(対前年同月比で0.2ポイント上昇)です。一般職に比べて求職者に対する求人数が圧倒的に多く、保育士獲得競争は激化しています。

(出典:厚生労働省「保育⼠の有効求⼈倍率の推移(全国)」/https://www.mhlw.go.jp/content/001018261.pdf

(出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年1月分)について」/https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_31294.html

保育所定員の弾力化を実現するには、保育士の確保も同時に必須です。待遇改善や労働環境の整備、研修制度の充実など、保育士にとって魅力的な職場づくりが重要となります。

2. 保育の質の維持

保育所定員の弾力化によって増える子どもたちのニーズに対応していくには、保育の質の維持が重要です。厚生労働省では、保育の質を下記のように定義しています。

子どもたちが心身ともに満たされ、豊かに生きていくことを支える環境や経験
(引用:厚生労働省「保育所等における保育の質の確保・向上に係る関連資料」/https://www.mhlw.go.jp/content/11907000/000360397.pdf 引用日2023/04/19)

保育の質を簡単に言えば、子どもたちの安全性確保・健やかな成長を支える環境の整備・個々の子どもに応じた適切な指導やケアの提供などです。保育士と保護者の連携や情報共有も、保育の質を高める要素となります。

保育の質を維持・向上させるためには、余裕をもって保育に専念できるだけの人員確保が不可欠です。保育士の人数配置が適正化されることで、すべての子どもに対するケアや教育が行き届く可能性が高まり、安全で快適な保育環境が実現されます。十分なサポート体制が整うことで保育士の過労を防ぎつつ、スキルや知識の向上も期待できるでしょう。

5. 保育所定員の弾力化を実施する場合の対処法

保育所定員の弾力化を実施する場合、子どもたちへの適切な保育の提供と、保育士を確保・定着させるための環境整備が欠かせません。保育士が働きやすい環境を整えることで、職員の確保・定着が促進され、保育の質向上にもつながります。

労働環境を整備する際には、保育士配置に係る特例を活用するとよいでしょう。

【保育士配置に係る特例の概要】

最低2名という保育士の配置基準が緩和され、朝夕など子どもが少ない時間帯であれば、2名のうち1名を子育て支援員研修修了者などに代替可能です。保育所が8時間以上開所する場合も、認可時の最低基準を上回る人数分は子育て支援員研修修了者などで穴埋めできます。また、幼稚園教員・小学校教員免許状取得者や養護教諭を保育士の代わりに配置できるようになりました。
※保育士は全体の2/3以上配置する必要あり
(出典:厚生労働省「保育所等における保育士配置に係る特例」/https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000146612_1.pdf

職場環境の改善・見直しも急務です。働き方改革を推進し、柔軟な労働時間や勤務体制の導入、および仕事内容の調整により、保育士の働きやすさを向上させましょう。ICTシステムを活用すれば業務効率化を図れ、保育士の負担軽減が期待できます。

教育体制の整備も重要な要素です。研修や勉強会を定期的に実施し、保育士一人ひとりのスキルアップや知識の維持・向上を促すとよいでしょう。保育方針を徹底し、保育士が共通の目標に向かって働くことができれば、モチベーションの向上にもつながります。

また、手厚い復職支援により経験豊富な保育士や、潜在保育士の採用が可能です。育児休業からの復職をサポートする制度導入や研修の提供、柔軟な勤務体制の整備により、優秀な人材が集まりやすくなります。

保育所が定員を超過して子どもを受け入れる際には、保護者や地域社会との連携も必要です。保護者や地域の人々と積極的にコミュニケーションを取り、保育所の計画や取り組みの必要性、考え方の基本を説明して理解を得られれば、弾力化を進めやすくなります。

まとめ

保育所定員の弾力化とは、保育所が子どもを受け入れる人数を柔軟に調整し、保護者のニーズに沿った保育を提供する方法のことです。待機児童問題の解消や途中入園の子どもの柔軟な受け入れ、保護者の働き方に合わせた保育時間の変更などがメリットとなります。

弾力化のメリットがある一方で、弾力化に伴う保育士の人手不足や保育の質の低下などが懸念されています。保育所の勤務環境を整え、保育士を確保・定着させることが弾力化を実現するポイントと言えるでしょう。

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※当記事は2023年4月時点の情報をもとに作成しています

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