子どもがおもちゃで大けが!母親のあたたかい言葉になぐさめられるも、実は… [ヤメエピ@保育士辞めたいエピソード]
「保育士辞めたい!」と感じる瞬間ありませんか?もう無理。。疲れた。。そんなあなたが心底共感できる話をお届け!
担当するクラスで事故が発生し、3針縫う大けがに!
地方都市で働く9年目の保育士です。私の日課は、子どもが登園する前にクッション材を補修したり、木製おもちゃのささくれを削ったりして、保育室の安全対策をすることです。この習慣を始めたのは、4年前のある事故がきっかけでした。
当時、私は2歳児クラスの担任で、さほちゃんはその日もお気に入りの手押し車を押して遊んでいました。そこまではいつも通りの光景だったのですが……。私が少し目を離した隙に、さほちゃんがおもちゃにつまずき、持ち手の部分で鼻を強打。ぶつかった箇所にささくれができていたために、鼻に傷を負ってしまったのです。すぐに病院に向かったものの、なかなか出血が止まらず、結果的に3針縫うことになってしまいました。
自分が一緒のときに起こった事故ですから、責任はすべて私にあります。しかし、落ち込んでいる私に、さほちゃんのお母さんは「子どもにけがはつきものです。ご自分を責めないでくださいね」と声をかけてくださいました。嬉しかったし、本当に気持ちが救われました。あの言葉のおかげで、今も保育士を続けられていると言っても過言ではありません。
それ以来、私は保育室だけでなく廊下やエントランス、園庭にまで徹底的に目を配り、危険箇所を見つけたらすぐ園に報告するようにしているのです。
マスクをはずさないのは、あのときの傷が理由だった
それから3年が経ち、昨年再びさほちゃんの担任になったのですが、日々顔をあわせるなかで、ひとつだけ気になることがありました。食事のとき以外、ずっとマスクをつけているのです。呼吸がしづらそうだなと心配はしていたのですが、感染症の予防など何かしらの理由があるのだろうと思い、はずすことを勧めたりはしませんでした。でも、事情は違っていました。
本当の理由を知ったのは、お遊戯会の練習のときでした。突然園長に呼ばれて、「さほちゃんの頭につけるウサギの飾りを、鼻が隠れるように作り直してほしい」と言われたのです。不思議に思って理由を尋ねてみると、「お母さんが鼻の傷を隠したがっているから」とのことでした。それを聞いた瞬間に、マスクの謎もとけました。そして、お母さんが傷のことをひどく気にしていると知り、自分が情けなくなりました。「傷は薄くなって見えないし、もう平気だろう」とあの出来事を、勝手に“過去のこと”にしていたからです。
私は自責の念にかられながら、園長の指示通りに飾りを作り直しました。しかし、皮肉なことにそれが原因で、また事件が起きてしまったのです。
かなえられなかった、「みんなと同じがいい」という思い
それは、お遊戯会の本番間近のことでした。さほちゃんがほかの子に、「そのウサギ、大きくて変だよ」とからかわれたのです。私は「ちっとも変じゃないよ」と言ってその場をおさめようとしたのですが、さほちゃんは「変だよ! さほもみんなと同じがいいのに、ママがお鼻を隠しなさいって言うんだもん!」と泣きじゃくります。
さほちゃん自身は傷のことを気にしておらず、みんなと一緒の活動を望んでいたのです。だとしたら子どもの意思を尊重して、みんなと同じ飾りにしてあげたい。そう思ったのですが、お母さんの意向がある以上、すぐに思いをかなえることはできません。悩んだ末に、私はお母さんに相談することにしました。
その日の夕方、お迎えにきたお母さんに昼間の出来事を話し、思い切って「さほちゃんにみんなと同じ飾りをつけさせてあげたい」と伝えてみました。お母さんはしばらく黙っていましたが、「先生を責めるつもりはないのですが」と口を開き、こう続けました。「さほは気にしていないかもしれませんが、人前で傷をさらせばお友だちにからかわれたり、ほかの保護者に好奇の目で見られたりするかもしれません。あの子が傷ついてからでは遅いんです」。もとはと言えば私の落ち度なので、言葉を返すことができませんでした。そして、さほちゃんは一人だけ大きな飾りをつけて劇に参加することになりました。
あのときのお母さんの言葉を思い出すと、「私がきちんとおもちゃの点検をしていれば」と、胸が張り裂けそうになります。けがが治ったとしても、本人や保護者の心には一生傷あとが残るんですよね……。どれだけがんばっても、完全に事故をなくすことはできませんが、これ以上後悔しないためにも、園内の安全対策はずっと続けていきたいと思います。
※本記事は、ほいくらし編集部の記者が取材を行い、その内容をもとに執筆した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えて構成していますご了承ください。
取材・文/木下喜子 イラスト/やましたともこ