保育士には処遇改善手当があると聞くと「私も給与アップするかな?」と気になりますよね。この記事では保育士の処遇改善手当の対象者や金額について詳しく解説します。
保育士の処遇改善手当とは?
保育士の処遇改善手当は正式には「保育士等の処遇改善加算」と呼ばれ、保育士不足改善のために内閣府が実施している補助金制度です。
保育士不足の原因である賃金の向上を目的に2013年(平成25年)から始まった制度で、実情に合わせた改正をしながら着実に効果をあげています。2017年(平成30年)からは保育士の技能や経験も反映する制度となっています。
保育士の賃金問題
この十数年、保育士不足は深刻な状態が続いており令和6年の保育士の有効求人倍率も3.54倍(3.54件の求人に対して保育士が1人しかいない状態)となっていますが、その大きな原因として「保育士の給与の低さ」があります。
平均年収 | 平均月収 | |
全職種 | 500.7万円 | 42.7万円 |
保育士 | 363.5万円 | 30.0万円 |
令和元年に行われた厚生労働省の統計調査では全職種の平均年収と比べて約137万円も低くなっています。東京都の保育士実態調査報告書では退職理由の第2位に「給与の低さ」が上がっており、再就職の希望条件としても64%が「給与」と答えています。
最新の令和5年賃金構造基本統計調査によると、保育士の平均年収は396.9万円※まで改善していますが、業務の重さや不足状況から考えてもいまだに十分な給与とはいえません。保育士の処遇改善手当は今後もより良い形に見直しながら継続されていく見込みです。
※令和5年賃金構造基本統計調査 保育士欄の「きまって支給する現金給与額」に12を乗じ、「年間賞与その他特別給与額」を足した額
処遇改善手当の種類と金額
保育士の処遇改善手当は趣旨に応じてⅠ~Ⅲの種類があり、それぞれ対象者や算定方法が異なります。
処遇改善等加算の種類と算定方法
- 処遇改善等加算Ⅰ
すべての職員を対象に、平均経験年数・キャリアパスの構築等に応じ加算率(最大19%)を設定し処遇改善を実施
- 処遇改善等加算Ⅱ
園長や管理職を除く中堅職員や専門リーダーを対象に、技能・経験に応じて月額4万円又は月額5千円の処遇改善を実施
- 処遇改善等加算Ⅲ
全ての職員を対象に、賃上げ効果が継続される取組を行うことを前提に、月額9千円の処遇改善を実施
この表からも分かるように処遇改善手当は施設の取り組み状況で決定され、手当金は施設にまとめて支給されます。各職員への分配方法は園に任せられているため、上記の算定額がそのままもらえるとは限りません。
処遇改善等加算Ⅲの平均支給額
他の加算と比べて導入しやすく分配の自由度が高い「処遇改善等加算Ⅲ」は2023年時点で約9割の保育施設が利用しています。保育士の処遇改善手当金額の参考として平均支給額をみてみましょう。
<処遇改善等加算Ⅲによる1人1ヶ月あたりの処遇改善額>
処遇改善等加算Ⅲ(9千円×公定価格上の基礎職員数)は1人月額平均 9,000 円相当の引き上げを目指す施策ですが、 実際の改善額は半数以上が9,000円を下回っています。
これは多くの施設が事務職員や調理職員など保育士以外の職種にも手当を配分するためです。支給された手当を全体の賃金改善に充てるため配置基準より人が多いほど9,000円を下回りやすくなります。
このように制度の算定方法の金額はあくまで目安です。自分の支給額が本来いくらなのか知ることは大切ですが、施設の方針によって変わることを覚えておきましょう。個人に支給される処遇改善手当の額は給与明細で確認できます。
保育士の処遇改善手当の対象
処遇改善手当はどのような保育士がもらえて、処遇改善等加算Ⅰ〜Ⅲのどの種類になるのでしょうか?詳しくご紹介します。
認可保育施設
処遇改善手当は認可保育園施設にしか支給されません。認可保育所・認定こども園・小規模保育事業所が対象となります。
公立保育園の職員
地方公務員である公立保育園の職員も処遇改善等加算Ⅰ・Ⅲの対象です。リーダーなどの中間管理職を持つ保育士は処遇改善等加算Ⅱの対象になります。
私立保育園の職員
民間企業が運営している私立保育園も認可園であれば対象となります。全職員が処遇改善等加算Ⅰ・Ⅲの対象、中堅管理職の保育士は処遇改善等加算Ⅱの対象です。
園長・主任保育士
園長や主任保育士は管理職とみなされるため、中堅管理職を対象とする処遇改善等加算Ⅱではなく、全職員が対象となる処遇改善等加算Ⅰ・Ⅲが適用されます。
非正規雇用の保育士(パート・派遣)
パートや派遣社員など非正規雇用の保育士でも、認可保育施設の職員であれば処遇改善等加算Ⅰ・Ⅲの手当が受けられます。
保育士の処遇改善手当の対象外となるケース
保育士であっても以下のようなケースは処遇改善手当の対象外となります。支給の有無を確認する前に把握しておきましょう。
認可保育施設以外の施設
認可外の保育施設の職員は処遇改善等加算の対象外になります。ただし、自治体や運営企業独自の手当が支給される施設もあるので確認してみましょう。
産休または育休中の保育士
処遇改善等加算は賃金改善のために支給されるものなので、給与が発生しない産休・育休中の職員は対象外になります。ただし、対象の職員が年度の途中で産休を取得し、代理の職員を立てるのが難しい場合はその他の施設職員の賃金改善に充てられます。
施設が処遇改善手当の申請を行っていない
処遇改善等加算の対象となる施設や職員であっても、申請を行なっていない場合は支給されません。手続きや書類作成、研修制度の設置と実施など作業が膨大なため処遇改善等加算Ⅰ〜Ⅲのすべての実施は難しい園もあるようです。
保育士の処遇改善手当の課題
処遇改善手当は保育士の賃金改善に一定の成果をあげていますが、その複雑さから現場からは課題もあげられています。
制度が複雑で分かりにくい
全員の昇給、技能構築や経験の評価、取り組みの継続などを実現するために、処遇改善等加算は3種類以上に分かれ、要件も算定方法も細かく分かれているため制度の理解に時間がかかります。
事務作業が煩雑
対象者の選定や申請書類の作成、加算額の算定以外にも、要件を満たすための処遇改善計画や研修予定を立て、実績報告書の提出なども必要です。自治体との確認作業もあり膨大な事務作業が発生します。
安定した賃金改善がしにくい
加算額の算定式には変動しやすい在籍職員数や在籍児童数が含まれます。人数の変化によって支給額が変わってしまうため「毎回〇〇円アップ」といった安定した賃金改善は難しいようです。
研修の負担が大きい
技能・経験に応じた手当を支給する処遇改善等加算Ⅱでは、副主任はマネジメント+3つ以上の分野 の専門研修、専門リーダーはマネジメント+3つ以上の分野 の専門研修を終了しなくてはなりません。人手不足の中、中堅クラスの保育士が長く抜ける現場の負担は大きなものでしょう。
手当の配分が難しい
処遇改善手当は施設にまとめて支給され、その後の分配方法は園に任せられています。「そのまま支給すると副主任が主任の給与を超えてしまう」「対象者が産休でいない」など調整が必要になるケースも多々あるようです。
処遇改善手当は施設に確認する
処遇改善手当がすでに支給されている場合は給与明細に記載がありますが、今後の実施方針や分配基準については施設に直接問い合わせると確実です。
申請する制度の種類や手当の分配方法は施設に委ねられており、同じ加算制度、同じ役職でも所属する園の考え方次第で違ってきます。金額はもちろん、支給されるタイミングもそれぞれなので気になる場合は入社前に確認しておきましょう。
すでに処遇改善手当を利用してる園でも、課題解決のため令和7年度以降の処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲの1本化が検討されているため、ご紹介した情報から変わっていく可能性もあります。最新情報に目を光らせておくことが大切です。
転職先の待遇情報として知りたい場合は、処遇改善等加算だけでなく自治体や運営企業独自の保育士補助制度も一緒にチェックしましょう。奨学金の返済補助、住宅手当補助、給与の加算など処遇改善手当を超えるサポートを受けられる自治体も珍しくありません。
転職で待遇の良い職場を探している場合は、プロの転職アドバイザーを通すとスムーズです。
マイナビ保育士では業界に精通したキャリアアドバイザーが施設との条件交渉も含め、希望に合った職場をお探しします。保育士の待遇情報にも詳しいので処遇改善手当のような複雑な制度の相談でも頼りになりますよ。
まとめ
保育士の処遇改善手当は保育士の賃金改善を目的とした補助金制度です。認可保育施設であれば全職員が対象になります。
処遇改善手当は趣旨によって処遇改善等加算Ⅰ~Ⅲの3種類に分かれており、対象者も支給金額も異なります。手当は施設にまとめて支給され、施設全体の賃金改善費としても使われるため全額が対象者に振り込まれるとは限りません。
制度が複雑で課題もあり、今後は改定も検討されています。転職などで処遇改善手当について詳しく知りたい場合はプロのキャリアアドバイザーに相談するのがおすすめです。