【保育】保育園と子育て世帯をつなぎ、一時保育が「当たり前」になる社会を目指す「ちょこいく」とは?

【保育】保育園と子育て世帯をつなぎ、一時保育が「当たり前」になる社会を目指す「ちょこいく」とは?

株式会社ライフケアパートナーズ(日本生命グループ)は、2022年2月から2023年3月にかけて、一時保育を利用したい子育て世帯に保育園の空き枠を提案する、マッチングサービス「ちょこいく」の実証実験を行いました。一般的に、一時保育を利用するには書類の提出や保育園との面談などが必要ですが、「ちょこいく」ではそうした手間と時間をなくし、保育園探しから予約までをLINEで完結できるようにしています。今回はこのサービスのメリットや、日本生命グループが子育て事業に取り組む目的などについて、サービス開発担当者の田中紗代さんにうかがいました。

\お話を伺った方/
田中紗代さん 株式会社ライフケアパートナーズ(日本生命グループ)

安心して子どもを預けられる一時保育のサービスを提案

——一時保育マッチングサービス「ちょこいく」が生まれたきっかけから、お聞かせください。

田中:まわりの先輩や友人にも、働きながら子育てをしている女性がいるのですが、そうした方たちは幸せそうでありながら、やっぱり大変そうに見えます。なかには、がんばりすぎて産後うつになってしまった友人もいます。そこで、「自身のリフレッシュや子どもの成長のために、1日数時間でも安心して子どもを預けられる場所を作れないか」「そうした場所があれば、女性がキャリアも子育ても趣味もあきらめなくてよい社会に近づくのではないか」と考え、一時保育のマッチングサービスを思いついたのが、もともとのきっかけです。そのアイデアを、勤務先の社内起業プロジェクトに応募したところ、約400件の中から選んでいただくことができました。

「ちょこいく」を提案した田中紗代さん(写真左)と青木彩さん(写真右)。2人とも内閣府男女共同参画局に出向していた時期があり、「女性が選択を迫られない社会」を作ることを考えていたとか。

——400件から選ばれたのはすごいですね! 一時保育マッチングサービスが評価された要因は何だったのでしょうか。

田中:利用者である「子育て世帯のペインポイント(困りごと)」と、社会に貢献したいという熱い気持ちを持つ保育所をマッチングするサービスという事業内容がダイレクトに結びついたことですね。ご両親と同居している場合は別ですが、多くの子育て世帯は子育てをするなかで、しんどいことや誰かに頼りたいことがあっても頼るすべがありません。本当なら、そういうときにこそ一時保育を利用してほしいのですが……。実際に一時保育を利用するには、行政に事前登録し書類を書いて、電話で保育園の空きを確認して、見つかったら面談にも行かないといけない。預けたくても時間と手間がかかりすぎて、とてもハードルが高いのです。私たちの事業は、そうした煩雑さを解消した点が評価されました。

——一時保育は手続きが大変で、利用したいのになかなか利用できないサービスになっていたんですね。

田中:そうなんです。最初に、3,000人の子育て世帯にアンケートをとったところ、「一時保育を使ってみたい」と答えた方は7割近くいたのですが、「実際に使ったことがある」という方は2割程度。このギャップの背景にあるものは何だろうと思って掘り下げてみたところ、手続きの煩雑さを挙げる方が多く見られました。でも、一時保育を使わない理由はそれだけじゃありませんでした。「自分のために子どもを預けるのは後ろめたい」といった葛藤を感じている方も、意外に多かったんです。

——「ちょこいく」には、そうした葛藤を払拭する工夫もあるのでしょうか。

田中:面倒な書類をなくし、保育園探しから予約までをLINEで完結できるのが「ちょこいく」のいちばんの特徴ですが、もう1つの特徴として専属オペレーターを配置していることが挙げられます。オペレーターが子育て世帯の方たちの要望や相談を聞き、「安心して預けられる保育園を一緒に探しましょう」というスタンスで対応することで、少しでも罪悪感や不安感を払拭できるのではないか、と考えたのです。

——オペレーターが保育園探しの伴走をしてくれるのは心強いと思います! ほかに、工夫されている点はありますか?

子どもを預ける場合は、「安心・安全」であることが大前提です。そこで、ご紹介する提携保育園は「認可外保育施設指導監督基準」を満たす園のみとしています。もちろん提携する際あたっては、実際に訪問して、認識のずれがないようにお話をさせていただいています。

子育て世帯、保育園、保育士、それぞれにメリットがあるサービスを目指す

——使い勝手のよさとオペレーターがいる心強さ、そして安心・安全な保育園選び。「ちょこいく」が支持される理由がわかった気がします。実際に利用された方からは、どのような声が聞かれますか?

田中:「便利」という声が圧倒的に多いですね。また、オペレーターが丁寧で細かな提案を行っていることも、みなさんの安心感につながっているようです。子どもを預けることに罪悪感を持っていた子育て世帯の方も、実際にサービスを利用した後は、すごくほっとした表情を見せてくださるんですよ。そうした姿を見ていると、本当にうれしく思います。

利便性を追求しながらも、オペレーターを置くことで子育て世帯の方たちの不安や罪悪感を払拭。安心して使えるサービスを実現しました。

——子育て世帯の方たちが一時保育を利用することで、提携保育園にもメリットがあるのでしょうか。

田中:一時保育を利用したことをきっかけに定期利用に移るケースも多く、提携保育園には経営面でプラスになっていると喜ばれています。以前は待機児童が問題になっていましたが、今は少子化を見据えて園児の確保に注力している保育園が少なくありません。そのため、定期利用につながったことを聞いた別の保育園から、「提携したい」といった問い合わせをいただくこともあります。

——一方で、保育士さんの負担が増える可能性もあります。実際に子どもと接する保育士さんのたち反応はいかがですか? 

田中:おっしゃるとおり、保育士さんに負担がかかってしまう部分があることは事実です。でも、なかにはこんな事例もあります。ある保育士さんに、一時保育の受け入れのお願いをしたところ、最初は「余裕がない」という理由で断ろうとされていました。しかし、やりとりを重ねるなかで利用者の方が産後うつに近いほど疲れていることがわかり、受け入れを承諾してくださったんです。初回はお子さんが泣いてしまって大変だったようですが、利用者の方は「預けた2時間で気持ちが楽になった」と喜んでいらっしゃいました。

その後も繰り返し利用していただいたのですが、保育士さんが言うには、3〜4回目くらいで利用者の方の顔が初回とは別人のように元気になったのだそうです。そして、それを見た保育士さんは「自分が保育士を始めたときの『なんとかして子育て中の方たちを支えたい』という原点を思い出した」と泣きながら電話をくださいました。

——利用者の方に寄り添おうとする保育士さんの思いは、とても素敵だと思います。

田中:その話を聞いて、私たちも支え合うことの大切さをあらためて実感できました。「ちょこいく」のサービスが保育士さんのやりがいにつながるのは、とても光栄なことです。

一時保育の受け入れは大変だが、「子育て世帯の方たちを支えているというモチベーションや、仕事のやりがいにつなげてもらえたらうれしい」と田中さんは話す。

一時保育を「当たり前」にして、社会全体で子どもを育てたい!

——実証実験を通じて、明らかになった課題などはありますか?

田中:一時保育はまだ一般的な選択肢ではないし、知っていても使う人はそれほど多くありません。だからこそ「ちょこいく」で一時保育を体験していただき、「ちょこっと子どもを預けるだけで、育(いく)児がより楽しくなる」ということを感じていただきたいと思っています。

ただ、さきほどお話したように、子どもを預けることに罪悪感を持っている子育て世帯の方は想像以上に多いんです。それを考えると、私たちの競合は他社ではなく「子育て世帯の方たちの我慢」かもしれません。「しんどいのを我慢しよう」「自分の用事を我慢しよう」「お金がかかるから我慢しよう」——。そんな我慢をなくさないと、保護者が何も諦めなくていい社会にはたどり着けないと思います。そして、そのためには、もっと一時保育が「当たり前」になるための取り組みをしていかなければなりません。それを提携保育園と共に考え、付加価値のあるサービスを作っていきたいですね。

——一時保育を「当たり前」にするため、今後事業をどのように発展させていく予定ですか?

田中:2023年3月の時点で、「ちょこいく」の利用登録者の方は約4,000人、提携保育園は70園。エリアは世田谷区から目黒区、大田区、渋谷区まで拡大し、今後は23区全体に広げていく予定です。もちろんニーズがあれば、他府県にもお届けしていきたいと思います。

また、保育園は地域のインフラでもあるので、そこで働いている保育士さんがやりがいをもって働くことができれば、地域の基盤もしっかりしてくるはず。ですから、子育て世帯だけでなく保育士さん目線の意見もたくさん取り入れながら、サービスを改善していきたいですね。

——最後に、「子育て」や「保育」に対する日本生命グループの関わり方についてもお聞かせください。

田中:保険会社という立場から、社内では「子育てを通して社会をよりよくしていく」といった思想が脈々と受け継がれてきました。企業主導型保育を対象にした「子育て未来コンシェルジュ」(※1)というサービスを始めたのが3年前で、昨年度には「NISSAYペンギンプロジェクト」(※1)を立ち上げています。

「ちょこいく」は生まれたばかりの事業で、まだまだ小さなサービスです。できることも限られていますが、まずは目の前の課題に対してアクションを起こすことが大事です。そうやって、さまざまなアクションが積み重なり社会全体が変わっていけば、子育てがしやすくなって、少子化をはじめとする大きな課題の解決にも結び付いていくのではないでしょうか。

※1 パパママ従業員と企業主導型保育所をつないで、「保活」を支えるWebマッチングサービス
※2 「社会全体で子どもを育てる」というコンセプトのもと、子どもたちの未来を応援する活動に積極的に取り組むプロジェクト。

「ちょこいく」で保育情報をチェック!

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「ちょこいく」の”C”にかたどられているのは「手」。上の手は親。下の手は育児を支えてくれる人。その二者が手を握り合い、その中で子どもが育まれている。そんな理想の子育てを形にした。

取材・文/山王 かおり 編集/イージーゴー

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