巨大な壁面おもちゃで子どもの創造力を育む|保育士兼おもちゃ作家が作ったワクワク感いっぱいのアトリエとは?

札幌市内の住宅街にある「アトリエマーブル」。その奥には、壁一面に異国の町並みを再現したかのような、巨大な仕掛けおもちゃがあります。地上には小さな端材で作られた家や塔が建ち並び、空には白い雲や飛行艇が浮かぶ。そんな壁面の町をよくよく眺めてみると、町なかをことりことりとビー玉が転がり、さまざまな仕掛け(からくり装置)を動かす仕組みになっていました。
“遊べるアート”と呼びたくなる作品の名前は、「marble machine wall(マーブルマシンウォール)2」。作ったのは、おもちゃ作家であり現役保育士でもある金子周平さんです。金子さんは現在、作家としての活動を理解してくれる園で保育士として働きながら、作品づくりやアトリエの運営を続けています。そうした背景があるためか、金子さんのおもちゃには、子どもの創造性を育むアイデアがいっぱいなんですよ!
今回は、金子さんに保育とおもちゃの関係や、おもちゃと創造性との関係についてお話をうかがいました。
\お話をうかがった方/
保育士・おもちゃ作家 金子周平さん
子どもが夢中になって遊び込めるものこそが「いいおもちゃ」
——おもちゃ作家として、子どもにとっての「いいおもちゃ」とはどのようなものだとお考えですか。
金子: ひと言でいうなら、その子が「遊び込めるもの」ということになるでしょうか。大人になっても、夢中で遊んだおもちゃの楽しさを覚えている人は多いと思います。そして、大人になっても記憶に残るくらい遊び込めるおもちゃは、その子にとって間違いなく「いいおもちゃ」です。
「東京おもちゃ美術館」の多田千尋館長もおっしゃっていましたが、おもちゃは「心の栄養補給」なんです。1人でぐっと集中できるもの、友だちと一緒に遊ぶものなど、あり方はさまざまですが、おもちゃには遊びをつくり出すわくわく感があります。そして、遊んでいる間は子どもも大人も笑顔になれます。それを考えると、遊び込めるおもちゃは、まさに心の糧だと思います。
——子どもは、日々の遊びのなかから「いいおもちゃ」を選び取るのですね。
金子:ただ、少子化や核家族化などが影響して、今の子どもたちは遊びのパターンを見る機会が少ないように感じます。ですから、まわりの大人がその子にとっての「いいおもちゃ」を見つける手助けをしてあげることも大事でしょう。
おもちゃは、「自分で遊びをつくり出していく」という点に本来の楽しさがあります。おとなしく遊んでいても、遊びが発展していかないようであれば、「こんな遊び方ができるよ」「これとこれを組み合わせたらどうなるんだろうね」といったように要素を足し引きして、創意工夫を手助けできたらいいかなと思います。
おもちゃは、保育現場に「余裕」を生み出す存在でもある
——保育士の目線で考えると、おもちゃは保育の現場においてどのような役割を持っているとお考えですか。
金子:保育者は、日々雑務に追われて忙しいですよね。しかし、忙しいなかでも子どもときちんとやりとりして、心の動きや成長を見守ろうとする保育者は少なくありません。そうした保育者の活動をサポートして、現場に「余裕」を生み出すのがおもちゃの役割ではないでしょうか。
おもちゃを用意したら、シチュエーションやタイミングの予測を立てて配置し、子どもたちが熱中して遊べる環境を作ってあげる。そうしたなかで、子どもたちの様子をよく観察する。それだけでも、余裕を持った保育活動ができると思うんです。その観点で見ると、「壊れにくくてシンプルで飽きないもの」が保育士目線でのいいおもちゃといえるかもしれませんね。
「憧れ」や「模倣」が、子どもたちの創造性を育む
——「子どもたちの創造性を育む」ということに対して、おもちゃ作家として、あるいは保育士として思うところはありますか?
金子:創造性は「憧れ」や「模倣」から生まれると思っています。以前、保育園で年中児たちが「積み木で恐竜をつくりたい」といい出したことがあるんです。話を聞いてみると、年長児が協力し合ってつくった大きな恐竜を見て、自分たちも同じくらいのものをつくりたいと思ったのだとか。その事例からもわかるように、憧れは「やってみたい」という気持ちに直結するんです。
大人や年上の子どもがものづくりに打ち込み、創意工夫をしているところを見せると、小さな子は自然に集まってきます。なので、保育の場であれば、目の前に「小さな子でもできること」を用意しておけるといいですね。きっと、それが創造性を育むトリガーとなるはずです。
ビー玉への思い入れから生まれた「marble machine wall 2」
——アトリエマーブルを訪れた子どもたちの反応はいかがでしょうか。
金子:やはり、「marble machine wall 2」には、大きな歓声が上がります。
最初は全体の大きさに驚き、そこから細かいところにフォーカスしていって、「湖があるよ」「この飛空艇動くよ!」「こっちは何をするところだろう」とストーリーを想像する。そして、あちこちに仕掛けられたからくりに気づく。その一連の動きを見ているだけで、感情の動きやワクワク感が伝わってきます。作品の物量やそこに費やした時間の多さは、魅力として伝わりやすいのだなと実感しますね。
——金子さんは、ビー玉という素材にも思い入れがあるのですか。
金子:丸くてかわくてノスタルジックで……。子どもたちはビー玉が大好きですよね。おもちゃ作家という立場から見ても、光で表情が変わる美しさや動きの面白さは、素材としてとても魅力的です。自分でも、「この年で毎日ビー玉のことを考えているなんて物好きだな」とは思いますが、とにかく惹かれるんです(笑)。
ビー玉で作品をつくる場合、いろいろな素材と組み合わせられると思いますが、私の場合、 木材を選ぶことがほとんどです。木はぬくもりが感じられるだけでなく、自由に造形できたり、着色したりができる。だから、表現の幅が広がるんです。木とビー玉は、表現のバリエーションが無限に広がるベストパートナーといえますね。
アトリエマーブルは、「創造の種」を育てる場
——アトリエマーブルを通じて、何を伝えていきたいですか?
金子:アートという言葉を聞くと、どうしても難しく考えがちですよね。特に、大人はアートを「高尚なもの」だととらえすぎている気がします。でも、実際のアートはそれぞれの表現活動の1つにすぎなくて、誰でも気軽に取り組めるものです。
また、不安なこと、考えなくてはいけないことが多い世の中にあって、アートは心の余裕を作ることにつながります。たいていの場合は、お金もあまりかかりません。だからこそ、アトリエマーブルは、「面白そうだな」「自分もやってみようかな」と思ってもらったり、創造の種を育ててもらったりする場でありたいと思っています。「センスがないから」なんていわずに、まずは楽しんでみてください。
いまの10倍くらいの「marble machine wall 2」を作りたい!
——個人としてあるいはアトリエとして、今後はどのような活動をしていきたいですか。
金子:子どもたちのリアルな興味や、心が動いたエピソードを自分なりの感性で受け止め、おもちゃにしていく。その活動を通じて、見る人や遊ぶ人の創造力を刺激し続けたいというのが個人的な思いです。
アトリエマーブルのほうの目標は、3つあります。1つ目は、「何回訪れても、新しいおもちゃがあるアトリエ」にすること。これは、おもちゃを作り続けることで、必ず実現させます。2つ目は、アトリエ内に「来場者が作りたいものを作れるアートギャラリー」を設置すること。いろいろな素材を手に取って、自分で作ることを体感してもらえたら、アートがもっと身近になると思うんです。
そして3つ目は、「小さなビー玉ミュージアム」を「大きなミュージアム」にしていくことです。今の10倍規模の「marble machine wall」を作ったら、絶対面白いじゃないですか。世界中の人に喜んでもらえるように、新しいエンタメを積極的に発信していきたいですね。
◆アトリエマーブル:https://www.atelier-marble.biz/
※2023年12/18~2024年3/31まで冬季休業
取材・文/二階堂ねこ 編集/イージーゴー