乳児院とは?入所理由や役割、保育士の仕事内容を紹介

乳児院とは?入所理由や役割、保育士の仕事内容を紹介

文:神戸のどか(保育士ライター)

児童福祉施設の一つである「乳児院」ですが、どのような施設か詳しく知らない方もいるでしょう。乳児院は、何らかの事情により家庭で過ごすことができない子どもが24時間生活する場です。保育園のように保護者が働いている間だけ子どもを預かる施設ではないため、保育士の働き方や必要なスキルも異なります。
この記事では、乳児院とはどのような施設か、乳児院への主な入所理由、役割、保育士の仕事内容ややりがいについてお伝えします。

乳児院とは?

乳児院とは、保護者の養育を受けられない乳幼児を養育する施設のことです。保育所や助産施設と同じように、児童福祉に関する事業を行う児童福祉施設の一つです。乳児院では、主に0~2歳頃の子どもたちが24時間過ごしています。

乳児院は、児童福祉法第37条で「乳児(保健上、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、幼児を含む)を入院させて、これを養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設である」と規定されています。

乳児院が初めて設置されたのは昭和22年。当初は、戦争孤児や感染症、栄養・衛生上の問題による発育不良から子どもたちを保護することを目的とした施設でした。

参考:児童福祉法|厚生労働省

乳児院に入れるのは何歳まで?

乳児院は、原則として1歳未満の乳児を保護や養育する施設です。しかし、平成16年の児童福祉法の改正によって、安定した生活環境の確保やその他の理由により、特に必要のある場合に限り、就学前までの子どもを預かることが可能になったことで、0歳から5歳までの子どもが入所対象となっています。

参考:社会的養護の施設等について|厚生労働省

乳児院の役割

厚生労働省は、乳児院の使命を、「大人に守られ、大切にされ、安心して生活できる環境を子どもに提供すること」また、「子どもに信頼に足る大人がいることを示すこと」としています。

さらに、乳児院では乳幼児の養育以外にも、下記のようなさまざまな子育て支援機能を持っています。

  • 保護者支援
  • 退所後のアフターケア
  • 親子関係の再構築支援
  • 地域の育児相談
  • ショートステイ
  • 里親への委託のサポート
  • 里親家庭への支援やケア

児童福祉法第48条の2において乳児院は、「地域の住民に対して、児童の養育に関する相談に応じ、助言を行うよう努める役割を持つ」と定義されています。つまり、乳児院には子どもが健やかに育つように地域の保護者も含めてサポートする役割があるといえます。

また、本来は一時保護所としての役割を持つ児童相談所ですが、乳児への対応ができない
ケースも少なくありません。そのため、乳児院が児童相談所から一時保護委託を受けることで、実質的に一時保護所としての役割も担っています。

参考:児童福祉法|厚生労働省

施設数・児童数

令和4年の時点で、乳児院の施設数は145ヶ所あり、2,351人の子どもが入所しています。乳児院の入所児童数は右肩下がりの傾向ですが、設置数は年々増えている状況です。
平成30年2月の調査によると、最も多い年齢は1歳が1,020人、続いて2歳が868人、0歳が662人であり、平均年齢は1.4歳です。
また、児童の委託時または入所時の年齢は0歳児が2,176人と最も多く、委託期間または在所期間は平均1.3年となっています。

(参考:児童福祉施設入所児童等調査の概要(平成30年2月1日現在)|厚生労働省 こども家庭庁 厚生労働省社会援護局障害保健福祉部
(参考:社会的養育の推進にむけて(令和5年4月5日)|こども家庭庁

配置人数の基準

乳児院では、毎年度4月1日に、在籍する子どもの年齢や人数により施設の職員数が決まる仕組みとなっています。
乳児10人以上の配置人数の定めは、下記の通りです。

子どもの年齢看護師・保育士・児童指導員の配置人数
2歳未満児子ども1.6人に対して職員1人
2歳児子ども2人に対して職員1人
3歳以上児子ども4人に対して職員1人


子ども10名以上の場合、看護師は2人以上必要で、10名ごとに1人の人員配置が定められています。さらに、施設長・家庭支援専門相談員・個別対応職員・栄養士・事務員・管理宿直専門員・医師(嘱託)が各1名ずつ。調理員は30名未満4人、以下10ごとに1人という人員配置になっています。

乳児院にはどのような子どもがいるの?

ここからは、乳児院への入所理由や、入所期間について紹介します。

入所理由

子どもの入所理由として、家族の疾病、虐待、ネグレクト、父母の就労、受刑、経済的困難などが挙げられます。近年は、母親の精神疾患や虐待による入所が増加傾向となっています。
子どもの入所の理由は一つとは限らず、いくつもの要因があるケースが多いためより複雑です。

入所時の子どもの状況

乳児院運営指針によると、乳児院に入所した子どもの約半数が、病児・虚弱児・障害児・被虐待児といわれています。入所したときから心身に何らかの問題を抱えていることが多いため、手厚い関わりが必要であり、個別的な医療的・養育的なケアが求められます。

入所期間

乳児院の在所期間の傾向は、半数が6ヶ月未満と短期です。乳児院を退所した後は、約60%の子どもたちが家庭に復帰しています。里親を見つけて新しい生活を始める子どもがいる一方で、児童養護施設に転所する子どももいます。

乳児院に長期在籍となる3歳以上の子どものほとんどは、重い障害があったり兄弟が同じ施設にいたりするなど、保育看護の環境が必要な子どもです。さらに、保護者は精神障害、若年・未婚の母、借金など生活上の困難を抱え、孤立状態にあるケースもあります。そのような場合は、保護者支援や親子関係の再構築支援の役割がより求められるでしょう。

(参考:乳児院運営指針|厚生労働省 雇用均等・児童家庭局長通知

乳児院の1日の流れ

施設や子どもの月齢にもよりますが、乳児院の1日の流れは下記の通りです。

時間活動
7:30起床・朝食
9:00遊び
11:30昼食
12:00お昼寝
15:00おやつ
17:00夕食・お風呂
20:00就寝

乳児院と保育園の日中のスケジュールに大きな違いはありませんが、乳児院では入所している子どもたちの特性に配慮する必要があります。たとえば、乳児院には健康児のほかに、病児・虚弱児・障害児・被虐待児などさまざまな子どもがいます。1日のスケジュールは、子どもたちの心身の状況を考慮して決められます。

さらに、子どもが入所したばかりであったり、退所時期が近かったりするなど状況によっても配慮が必要です。

乳児院で働く保育士の仕事内容・やりがい

乳児院で働く保育士は、個々の子どもの状態や家庭的背景を理解したうえで子どもを温かく受け入れ、養育することが大切です。多様な背景を抱える子どもをサポートすることは簡単なことではありませんが、社会に貢献できる重要な仕事といえるでしょう。ここからは、保育士の仕事内容ややりがいについて詳しく紹介します。

仕事内容

乳児院で働く保育士の仕事内容は、下記の通りです。

  • ミルクや離乳食の介助
  • おむつ替え
  • 沐浴や入浴の援助
  • 外気浴や遊びのサポート
  • 寝かしつけ
  • 夜泣きの対応
  • 健康状態の把握
  • 保護者と子どもの面会サポート

乳児院では、基本的生活習慣を身につけられるようなサポートを保育士が担います。さらに、乳児院で生活する子どもと愛着形成を築けるような関わりも求められます。父親や母親と離れて暮らしている子どもたちにとって、乳児院で働く職員は一番身近な大人です。子どもたちの信頼できる存在でいることも重要な仕事といえます。

また、乳児院では状況に応じて保護者と子どもが面会する機会を設けています。面会では子どもの日々の様子を伝え、親子関係が深まるようにサポートすることも保育士の大切な役割です。

やりがい

保育園と比べて養育する子どもの人数が少ない乳児院では、子どもたちに手厚い対応ができるでしょう。保育士のやりがいは、生活の援助や保護者支援を行い子どもたちが健やかに育っていけるようなサポートをできることです。
乳児院では子どもたちが24時間365日、施設で生活しているため、スタッフには夜勤や休日出勤があります。さらに、イレギュラーなことが起これば勤務時間が延びることもあるかもしれません。しかし、保育園のように日中だけではなく、小さな子どもたちの成長を24時間体制で見守れるのは乳児院ならではのやりがいといえるでしょう。

乳児院で働くには?

乳児院の職員については、「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」の第21条に規定されています。乳児院には子どもたちの生活に直接関わる看護師・保育士・児童指導員のほかに、間接的に関わる施設長・医師または嘱託医・栄養士・調理師・事務員の配置が義務付けられています。

さらに、家庭支援専門相談員・里親支援専門相談員・心理士などの専門スタッフがチームとなり親子を支えています。

(参考:児童福祉施設の設備及び運営に関する基準|厚生労働省

必要な資格

乳児院で働くために必要な資格は、下記の通りです。

看護師看護師資格
保育士保育士資格
児童指導員大学や大学院で一定の学部を卒業
児童福祉施設で2年または3年以上の実務経験 など
医師・嘱託医医師免許
栄養士栄養士免許
調理師調理師免許
家庭支援専門相談員社会福祉士・児童福祉司
里親支援専門相談員社会福祉士・精神保健福祉士
児童養護施設などで児童の養育に5年以上従事した者
心理士臨床心理士・公認心理師

乳児院で働く保育士に求められるスキル

乳児院で保育士として働く場合には、保育士資格が必要です。ただし、パートやアルバイトの場合は、保育補助として無資格でも働けることがあります。

乳児院の勤務は、24時間のシフト制であり夜泣きの対応やミルクの対応をすることもよくあります。また、複雑な事情を抱えた子どもたちと向きあうことが辛いと感じる場面もあるかもしれません。乳児院で働くためには、体力や精神力が必要です。

また、乳児院には、被虐待児・低出生体重児・慢性疾患児・発達の遅れがある子どもや障害児など、医療・療育を必要とする子どもが年々増加しています。なかには、関わりの難しい子どもや虐待が原因で愛着に課題を抱える子ども、心身が傷ついた乳幼児も在所しています。保育士にとって、医師や心理師などの専門職と連携をとりながら子どもを治療していくことも大切な仕事です。子どもが安心して信頼できる存在になれるように子ども一人ひとりの理解を深めつつ、周りの職員とよいチームを組めるようなコミュニケーション能力が求められるでしょう。

まとめ

24時間体制で子どもと関わる乳児院の仕事は、子どもの生活や成長を身近で見守ることができる一方で、責任が重いと感じるかもしれません。乳児院の仕事は子どもだけではなく、保護者のサポートや里親支援など、幅広いことが特徴です。子どもの特性や抱えている背景を理解し、より専門性を持った関わりが求められます。乳児院で働くことで社会に貢献できるため、やりがいを強く感じられるでしょう。子どもの大切な乳幼児期をサポートしたい方や親子をつなぐ支援をしたい気持ちがある方は、乳児院で働くことを検討してみてはいかがでしょうか。

参考サイト:

神戸のどか(保育士ライター)
保育園で、0歳児から5歳児の子どもたちの保育を5年半担当してきました。
「一人ひとりの個性」や「主体性」を大切にする保育園での勤務経験を活かし、
現在は保育士さんや子育て中のママやパパに向けて記事を執筆しています。
絵本や歌が大好きで、特に絵本の読み聞かせや手遊びが得意です。
保有資格:保育士・幼稚園教諭・認定ベビーシッター
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