保育士や保護者の「なんか気になる」を解決!子どもも大人も幸せになる保育ソーシャルワークとは?|株式会社ソーシャルワーク福岡

貧困や虐待、発達の悩みなど、子どもをめぐる問題が複雑化している現在、保育士だけで課題に対処するのが難しいケースも増えています。
そんななか注目を集めているのが、幼稚園や保育園を巡回しながら園児や家庭の困りごとに耳を傾け、園と一緒に問題の解決を目指す「保育ソーシャルワーカー」の存在です。なかには、公費で社会福祉士などの専門職を派遣する自治体もあり、子どもたちの早期支援や、保育士の負担軽減につながることが期待されています。また、厚生労働省も2020年から、保育ソーシャルワーク事業を行う自治体への助成をスタートさせました。
今回は、保育の現場でソーシャルワーク事業を展開する、株式会社ソーシャルワーク福岡の豊福圭代さんに、「保育ソーシャルワーカー」の必要性や取り組み内容についてうかがいました。
\お話を伺った方/
豊福圭代さん
株式会社ソーシャルワーク福岡 代表取締役
最近、注目を集めている「保育ソーシャルワーク」とは?
——株式会社ソーシャルワーク福岡について、簡単にご紹介ください。
豊福:『ソーシャルワークで人を幸せに』という理念を掲げて、2022年8月10日に設立した会社です。現在は、保育ソーシャルワーク事業を中心に、学校や産業分野でのソーシャルワーク事業(社内保健室)、産前産後事業などを手がけています。
——事業の中心となっている「保育ソーシャルワーク」とは、どのような活動なのでしょうか。
豊福:幼稚園や保育園、こども園などを巡回して、子育てや家庭に関する悩みに耳を傾け、保育士さんたちと一緒に解決を目指す取り組みです。現在は、福岡市内の幼稚園、保育園と直接契約を結び、1か月に1度保育士さんの話を聞いて助言したり、保護者の面談を行ったりしています。
核家族化が進む現代は、貧困や虐待、発達の悩みなど子どもをめぐる問題が複雑化しており、園だけでは解決できない問題も多く見られます。就学前サポートの重要性は、年々高まっていると言えるのではないでしょうか。
行政の福祉サービスではカバーしきれない部分を補いたい
——「保育ソーシャルワーク」を手がけるようになったきっかけは、何だったのですか?
豊福:自分の子育てをきっかけに始めた産前産後サポート事業を通して、「産前産後の家庭問題へのサポート」と「就学前の早期援助」の必要性に気づいたことです。
産前産後サポート事業では、育児の悩みを抱える保護者に助言を行ったり、仲間づくりを支援したりしていましたが、悩みや困りごとがあってもそうした集まりに参加しない方・できない方も多くいらっしゃいます。そのため、小学校に入学した子どもたちのなかには、「実は、幼少期から困りごとを抱えていた」というケースも少なくありません。
子どもをめぐる問題は、就学前の段階で固定化していることが多く、できるだけ早期の介入が必要なのです。とはいえ、行政の福祉サービスだけでそれに対応するには限界があります。それで、「自分たちで新しい保育サポートの形を作ろう」と考え、保育ソーシャルワーク事業をスタートさせました。
——保育ソーシャルワーカーとして、具体的にはどのような取り組みを行っているのでしょう。
豊福:実際の支援を行っているのは私も含めて2人いて、契約した園に6時間ほど滞在しながら、相談サポートを行っています。
園を訪問してまず行うのは、保育士さんや保護者の方とのコミュニケーションです。場合によっては家庭訪問を行い、子どもたちの状況を詳しく把握するようにもしています。また、必要に応じて医師、言語聴覚士といった専門家や行政、療養施設につなぐのも私たちの大事な役割です。
——そうした介入がうまくいかない場合は、どのように対応されているのでしょう。
基本的には、再度お話をうかがって、できる限り調整するようにしています。保護者の方とは定期的に面談を行いますが、そのなかで虐待などの疑いがある場合は、園と相談しながら行政に相談や報告をして、子どもの安全や権利を守ることを考えていきます。どのようなケースであれ、子どもや家庭の問題が深刻化する前に、適切に支援することが何より重要なんです。
保育士からの相談内容で多いのは「保護者との接し方」
——保育士や保護者から寄せられる相談内容には、どのようなものがありますか?
豊福:保育士さんからは、子どもの見立て方や保護者への接し方についての相談が多いですね。例えば、子どもが頑張りたいけどできない状況がある場合、発達の問題だけでなく、家庭内の状況による睡眠不足などが影響している可能性等もあるので、注意深く見守ることが大事です。
また、ある保育士さんから「保護者の方が経済的に厳しい状態で、心配が募っているようだという話を聞きました。私たちが聞いても本音を話されないので、第三者として介入してもらえないでしょうか」と相談を受けたこともあります。その際は、私たちが窓口となって、保護者と話す機会を設け状況を聞き取り、子ども食堂やその他、力になってくれるところを紹介し対応しました。
一方、保護者の方からは、子どもの発達や育て方に関する悩みが多く寄せられます。「子どもを育てる自信がない」といった相談もあれば、「夫が不在の時に夜泣きがひどいと、追い詰められて子どもに手をあげそうになる」といった相談もあり、悩みの内容は本当にさまざまですね。なかには、小さい頃からの不安定な睡眠や、落ち着きのなさに頭を悩ませている保護者もいらっしゃいます。
しかし、どのような悩みであっても、基本的な考え方は変わりません。大切なのは、しっかりと子どもの権利を守る体制を取り、寄り添いながらサポートしていくこと。そのために保護者と一緒に悩みを整理し、必要があれば適切な専門機関を紹介するようにしています。
保育士や保護者にとっての「心の安全基地」を目指したい
——保育ソーシャルワークを利用された保育士や保護者の方からは、どのような反応がありますか?
豊福:保育士さんから多く聞かれるのは、「相談のハードルが下がり、心理的に楽になった」という声です。保護者に対して行政や医療機関を案内するよりも、「園にいるソーシャルワーカーさんと話してみませんか」と声をかけるほうが、スムーズに話が進むと聞いたこともあります。
保護者の方からは、「園にソーシャルワーカーがいるので安心する」と言われることが多いですね。保育士さんが子どもたちの「心の安全基地」になっているように、私たちは保育士さんや保護者の方にとっての安全基地になりたいと思っています。
子どもも大人も幸せになれる社会を実現させましょう!
——今後の構想についてもお聞かせください。
豊福:人員体制を整えて、福岡市での活動規模を拡大していく予定です。保育ソーシャルワーク事業に携わったことで、子どもたちはもちろん、彼らを支える大人への支援体制の大事さも実感できました。だからこそ、質の高い保育ソーシャルワーカーの人材育成や活動の拡大に努め、子どもにとっても大人にとっても「よい社会」を実現していきたいですね。
——最後に、全国の保育士さんへメッセージをお願いします。
豊福:子どもたちのささいな変化に気づいても、それを保護者に話すべきか、どう伝えればいいかわからず、「どうしよう」と悩んでいる保育士さんもいるかもしれません。でも、保育士さんが、そうした問題を1人で抱え込む必要はありません。ソーシャルワークの専門家である私たちも一緒に悩み、考えていきますから遠慮なくご相談ください。
そして、子どもの未来を一緒に切り開き、子どもも大人も幸せになる社会を実現させましょう。
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取材・文/ほりちゃん 編集/イージーゴー