第4回 感染症が気になる寒い季節、どんなことに注意すべき?

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文/栄養士 笠井奈津子 写真/櫻井健司

大人とちがい、「ちょっとした風邪だから大丈夫」と油断できないのが、幼稚園や保育園に通う子どもたち。「風邪は万病の元」という古くからの言葉があるように、予期せぬ事態を招いてからでは遅いのです。

熱が高くなくても、中耳炎や気管支炎になったり、食欲不振による栄養不良で回復に時間がかかったりすることもめずらしくありません。

また、いま現在は新型コロナウイルスの感染拡大もあり、いつも以上に感染症が気になるでしょう。「ウイルスに負けない体づくり」のために、毎日の食事でできることを栄養士の笠井奈津子さんに聞きました。

体をつくる基本を知って、ウイルスに負けない体を目指す

ウイルスに負けない体を目指すためには、外部から侵入してきた細菌や異物に抵抗して体を守ってくれる「免疫」を最大限に発揮したいところ。そこで強く意識したいのは、体づくりの基本であるタンパク質をしっかり摂ることです。

タンパク質は、主食・主菜・副菜でいうならば主菜(肉、魚介、大豆・大豆製品、卵など)に多く含まれるもので、普段から主菜をしっかり食べているかどうかは重要なチェックポイントになります。

もちろん、特定の食品だけで免疫力が高まることはありません。肝心の免疫細胞そのものの材料となるのは、タンパク質ですが、主食・主菜・副菜をバランスよく食べることは必須条件です。

またタンパク質は、皮膚や粘膜を丈夫にし、ウイルスを体内に侵入させないという働きを持っています。さらに皮膚や粘膜をはじめ、骨、筋肉、内臓といった、体をつくるありとあらゆるものの材料にもなるため、日々ものすごいスピードで成長している子どもたちはしっかり補給する必要があるのです

一方、子どもたちが好きなものといえば、ごはん、パン、麺類などの主食ですよね。理由は様々ですが、小さな子どもたちは動物性たんぱく質を含む魚や肉を苦手とする傾向があるため、主食以外は食べたがらない子どもも多いでしょう。

「豆腐や納豆などの植物性タンパク質が食べられるなら大丈夫」といいたいところですが、それだけでは免疫機能を活性化する働きを持つビタミンやミネラルを十分に補うことができません。

タンパク質を体内でうまく活用するためには、牛肉に多く含まれる亜鉛や鉄、豚肉に多く含まれるビタミンB群などが必要ですし、近年、免疫力を上げる栄養素として注目されるビタミンDは、いわしやさんま、鮭などに多く含まれるものです。

栄養素多く含まれる食品
亜鉛・鉄牛肉
ビタミンB群豚肉
ビタミンDいわし、さんま、鮭

また、植物性タンパク質よりも動物性タンパク質のほうがタンパク質を効率的に摂取できます。そのため、できれば調理などで工夫をして、動物性タンパク質を少しでも多く摂取できるとよいでしょう。

人間の体の構造上、タンパク質が不足した状態が続けば、その不足を補うために筋肉を分解してタンパク質を使うことになります。だからこそ体づくりをしている子どもたちはとくにタンパク質不足は避けたいところです。

また、よく動いた日、ストレスを感じた日、体調が悪いときなどには、いつも以上にタンパク質の必要量が増えることも覚えておきましょう。

タンパク質は体に溜めておくことはできませんし、そもそも子どもは食べる量も多くありません。ですから、「少ない食事で良質なタンパク質を補給すること」に意識を向けてほしいのです。

中には「給食やお弁当を持参する園のため、食事では工夫ができない」というケースもあるかもしれませんね。そういった場合は「子どもが積極的に体を動かせているか」を意識してみてください。

子どもの場合、活動量が少ないと食欲も落ちがちです。給食をよく残す、お昼寝をあまりしないという日は、活動量が不足しているかもしれません。外に出られない日も、体を思いきり動かせる遊びを取り入れましょう。

大人の朝食には温かい汁物を取り入れよう

子どもたちを感染症から守るには、わたしたち大人がウイルスに負けないことも重要です。いつも以上に仕事が大変なときですが、だからといって適当に食事をするのはよくありません。寒さが厳しい時期、ウイルスに負けない体づくりのためのポイントは、「しっかり朝食をとること」です。

朝食をとらないと、体温や血糖値が十分に上がらず寒さを感じやすくなります。さらに抵抗力が落ちる、ダルさを感じるといったことにもつながります。

ただ、「しっかり食べる」といっても、朝が早い保育士さんたちが朝食に一汁三菜を用意するのは大変ですよね。そこで、冬場の朝食として最低限あってほしいメニューを3つ選びました。

<冬場の朝食に選んでほしいメニュー>

  1. エネルギー源となるごはん
  2. 体をつくる卵や納豆などのタンパク質源
  3. 体を温めてくれる汁物

でも、朝から汁物というのはそう簡単ではないので、次のような事前準備や簡単レシピで負担なく食べられるようにしましょう。

  • 週末に大量につくって冷凍しておく
  • 朝に飲めるように前日の夕食時の汁物を多めにつくる
  • インスタントの味噌汁にわかめをプラスする
  • 中華風のわかめスープに溶き卵をプラスする
  • 洋風のインスタントスープにほぐしたサラダチキンをプラスする

家を出るときに体がちゃんと温まっているかどうかで、1日のすごしやすさは確実に変わってきます。ウイルスに負けない体をつくるためにも、ぜひ実践してみてください。

つくるだけではダメ。食べることで、「栄養」になる

さて、子どもたちの話に戻しましょう。

勤務先の園では、子どもたちはいつもお弁当や給食を完食していますか? もし完食しているようであれば、それは素晴らしいことです。なぜかといえば、ご家庭でも園でも実際のところは出されたものを完食しない子どもたちに頭を悩ませていると聞くからです。

それこそ、わたしのような専門職の人間がどんなに栄養計算をしても、どんなに気持ちを込めて料理をつくっても、子どもたちがちゃんと食べなければ体内で栄養にはなってくれません。

もちろん、日々の小さな波は気にせずでもいいでしょう。気をつけるべきは、大人が「栄養計算をして」「栄養バランスよく」「彩りよく」「こだわって」考えてつくった料理が、子どもの「食べられない」を加速させてしまっているケースです。たとえば、家庭や園で次のようなことはなかったでしょうか?

「好物のハンバーグに細かく刻んだ野菜を入れたら食べなかった」

「彩りをよくするためにうどんに野菜を載せたら、食べにくかったようで残していた」

「献立で使う野菜が多くて、給食自体に苦手意識を持っている子どもがいる」

「すべての料理が薄味(単調)で、食が進まない」

良かれと思ってしたことが裏目に出るようなことは、わたし自身にもあります。個人差があることに対応するのは本当に大変ですが、全体的に残飯率が高い献立を見直すなど、子どもたちの栄養となるまでの導線をしっかりつくりましょう。理想を押しつけず、ときには「無理に盛り込まない」引き算も大切だと感じます。

栄養不足、栄養不良が引き起こすのは、抵抗力の低下だけではありません。万が一、ウイルスに感染したときも回復が遅れてしまいます。保育園や幼稚園の食事がちゃんと考えてつくられたものだからこそ、食べる量に比例して子どものプラスになることを忘れないようにしましょう。

写真つきのレシピ本をうまく活用する

一方で、子どもの嗜好ありきだけで考えることにも注意が必要です。

子どもは食の経験と語彙力が発展途上なので「好きな食べものはなに?」とヒアリングすると、図鑑や絵本に出てきそうなものばかりをあげてしまうからです。リクエストされたものばかりつくっていては、なかなか「食の経験」も「食べられるもの」も増えていきません。

そこでおすすめなのは、写真つきのレシピ本です。子どもたちが自由に手に取れる本棚に、絵本だけではなくレシピ本を加えるのも楽しいかもしれません。

かくいうわたしも、「今日のごはんなんにしよう?」と悩んだら、自分の子どもと一緒にレシピ本を見て選んでもらうことがあります。見た目は食欲を左右する要因のひとつですから、写真を見て「これが食べたい!」と選んだものにハズレはありません。また、「こういう料理をおいしそうって思うんだな」と、子どもの食の傾向を掴むことができます。

ウイルスに負けない体づくりは、「日々しっかり食べること」に尽きます。栄養計算も大事ですが、目の前にいる子どもたちが「どれくらい食べているのか」をしっかり見極めてうまく調整していきましょう。

栄養士/食育アドバイザー
1979年、東京都に生まれる。1児の母。聖心女子大学文学部哲学科卒業後、香川栄養専門学校(現・香川調理製菓専門学校)を経て栄養士になったのち、都内心療内科クリニック併設の研究所で食事カウンセリングに携わる。
産後、働き方を見直すなかでパラレルキャリアの道を開拓。
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