保育現場で実践! 子どもの「共感力」の育て方|EQWELチャイルドアカデミー主席研究員・浦谷裕樹

保育現場で実践! 子どもの「共感力」の育て方|EQWELチャイルドアカデミー主席研究員・浦谷裕樹

多くの人と関わりながら社会生活を営む人間にとって、他人と良好な関係を築いていくことは必要不可欠な要素です。では、子どもたちが他人と良好な関係を築けるようになるには、どのような個性・能力を伸ばしていけばよいのでしょうか。幼児教室・EQWELチャイルドアカデミーの主席研究員である浦谷裕樹さんは、「共感力がとても大事」だと話します。今回は、浦谷さんが言う共感力がどんな力なのか、その力を伸ばすために保育士は何をするべきかについて教えてもらいました。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)
取材・文/清家茂樹 写真/榎本壮三

グローバル化社会において重要性を増す共感力

前回の記事 で、「EQ(心の知能指数)」が、ふたつの力から構成されると説明しましたが、そのうちのひとつが「共感力」です。

共感力というのは、「他人の気持ちや欲求を推察し、良好な人間関係を築くためによりよい対応をする力」のこと。この力は、これからの時代を生きる子どもたちにとって、とても重要になります。

今後、世界のグローバル化はますます進んでいくでしょう。コロナ禍や世界的なインフレ、気候変動といった問題はすべて世界同時進行で起きているため、世界レベルで協力し合い、解決に向けて取り組まなければならないからです。そして、そこで力を発揮するのが共感力なのです。

ポストコロナにおいて、国内の外国人人口が再び増加に転じれば、先に挙げたような世界的な問題に取り組む場面に限らず、一般の人たちが普通に仕事をする際にも、多くの外国人と協力することが求められるはずです。

そうしたときに、共感力が欠如していたらどうなるでしょうか? 共感力に欠けている人の場合、たとえ日本人同士であっても良好な人間関係を築くのは容易ではありません。ましてや、育った環境も文化も持っている考え方も違う外国人が相手となれば、協力して仕事を進めるのが、とても難しくなるでしょう。

積極的にコミュニケーションをとり、相手の文化や考え方を受け入れ、そのうえで一緒によりよいステップを目指す——。そのためには、共感力が不可欠なのです。

まず「そうだよね」と子どもの気持ちを受け止める

子どもの共感力を伸ばすには、子どもが話しかけてきたときに、「そうだよね」と言って子どもの気持ちを受け止めることが、何より重要です。

わたしが所属するEQWELの卒業生で、大学卒業後にあるテレビ局のアナウンサーとなったAさんという方がいます。人事部長に聞いたところ、採用の決め手となったのはまさに共感力だったそう。そして、その力を育んだものこそ、Aさんの母親が心がけていた「子どもが話しかけてきたときに、まず『そうだよね』と子どもの気持ちを受け止める」という習慣だったのです。

自分の気持ちを話したときに「そうだよね」と言ってもらえると、子どもは「自分のことを丸ごと受け止めてもらえた!」と感じて安心します。加えて、受け止めてくれた人との心のつながりも感じます。その結果、心がつながることの心地よさを知り、他人の言葉や気持ちについても、「そうだよね」ときちんと受け止められるようになるのです。

ただ、子どもの場合、自分の気持ちを言葉でうまく表現できない場面もあります。そんなときは、「子どもの気持ちを言語化してあげる」ことを心がけましょう。

友だちとけんかしてイライラしているような子どもがいたら、「どうしたのかな、悔しかったのかな?」といった具合に子どもの気持ちを推察し、「うれしかったね」「楽しかったね」「つらかったね」「悲しかったね」「寂しかったね」などの具体的な言葉をかけてあげてください。

そうすると、子どもたちは「そうか、この気持ちはこういう言葉で表現できるんだ」というふうに、自分の気持ちをきちんと見つめられるようになります。その姿勢は、他人の気持ちに対しても向かいますから、結果的に他人の気持ちを推察する共感力の向上に結びつくでしょう。

相手がどういう気持ちだと思うかと考えさせる

話す言葉が増えてくる年齢になったら、「相手がどういう気持ちかを考えさせる」ことを心がけてみましょう。

この時期の子どもは、子ども同士のやり取りのなかでけんかをしたり、もめ事を起こしたりすることも増えてきます。もし、けんかが起きたらまずはその場を収め、子どもの気持ちが落ち着いてきた頃に、「相手がどういう気持ちか」を考えさせてください。

Bちゃんが遊んでいたおもちゃをCちゃんが取り上げてしまった。そんなケースなら、Bちゃんに対して、「どうしてCちゃんはおもちゃを持って行っちゃったのかな? Cちゃんはどんな気持ちだったと思う?」と聞くのです。

Bちゃんとしては、自分はおもちゃを取られて悔しいのですが、その悔しさを脇に置いて、「おもちゃで遊びたかったから」「わたしと一緒に遊びたかったのかもしれない」というふうにCちゃんの気持ちを想像します。

このとき、子どもの脳のなかで働いているのは、「メンタライジング・システム」というもの。これは、相手と自分の心が独立したものであることを理解しながら、相手の心に視点を持っていき、相手の心の状態を推察する、いわば客観視のシステムです。 人は、目の前のことに気を取られて感情的になると、まわりが見えなくなって視野も狭くなります。そこで必要となるのが、このシステムです。つまり、子どもたちに「相手がどういう気持ちだと思うか」と考えさせることでメンタライジング・システムを働かせ、「相手の気持ちや欲求を推察する」ための共感力を発揮してもらうのです。機会があれば、ぜひ実践してみてください。

EQWELチャイルドアカデミー・日本赤ちゃん発育学研究所・
新未来教育科学研究所主席研究員
1972年7月31日生まれ、東京都出身。工学博士、理学修士。京都大学理学部卒。同大学院修士課程を修了。教育分野における能力開発に従事し、専門学校講師、文部科学省委託プロジェクトメンバー等を歴任。EQWEL転籍後は研究活動も行い、2016年、子どもの呼吸誘導装置の研究成果が認められ、大阪工業大学大学院より工学博士(生体医工学)を授与された。現在は、「楽しく、わかりやすく、ためになる」をモットーに全国で講演活動中。主な著書に『子どもの天才脳を育てるコツ』、『ポジティブ育児メソッド』、『赤育本』、『子どもの未来が輝く「EQ力」』(いずれもプレジデント社)がある。
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